作家でコラムニストの亀和田武氏は、「POPEYE」(マガジンハウス)11月号を取り上げる。
* * *
週末は、どうしてたの。そう訊かれて、困った経験はないですか。「うーん……何してたかな」。口ごもっていると「ウチは友人の家族とバーベキュー」。質問者が嬉しそうに自己申告したりしてね。
「POPEYE」(マガジンハウス)11月号の特集は<WEEKEND LIFE CATALOG>。邦題は<僕たちの週末図鑑。>とある。カタログ。僕たち。40年前の「POPEYE」と同じ文字が表紙を飾る。
貶(けな)してるんじゃないよ。リニューアル後の「POPEYE」を、僕はかなりの頻度で購入している。恰好いい写真に、適度に洗練されたレイアウト。シティボーイたちの服や小物も、見ていて楽しいしね。
ジル サンダーのセーター、12万2千円。ボッテガ・ヴェネタのコートは27万円と、僕には無縁の物だが目の保養になる。僕はこの雑誌に実用性は求めない。若者の主張なんて、なまじ無いほうが気持ちいい。
ところが今月号の「POPEYE」は微妙にテイストが異なるんだ。特集の前説では「毎日なんとなくダラーッと過ごしている人も多い」けど「いろいろフクザツな今だからこそ考えてみたい」と提言したりね。
「休日や休みの時間というものを、普段の日常とキッチリ分けて、自分の人生に『もうひとつの時間』をつくるのはすごく豊かなことじゃないか?」
啓蒙しようとしているんだよ、シティボーイたちを。じゃ、何をしろというのか誌面を開いたら、箱根と下田への小旅行の勧めだから、ガクッとなる。“ロマンスカーで箱根か、踊り子で伊豆か。”だってさ。GoToトラベルに洗脳されちゃったのかな。
コロナは恰好いいお気楽誌にまで翳を落としている。週末じゃなくて、終末の気配さえ感じた誌面に、僕は当惑している。
※週刊朝日 2020年10月30日号