名誉にかけて裁判のやり直しを求める――。車イスで法廷に入ってきた男性は、力を振り絞るように訴えた。痴漢事件で、実刑判決を受けた東京都練馬区の小林卓之さん(70)が冤罪を訴えている再審請求審で、東京地裁(細田啓介裁判長)は1月31日、書面審理が一般的な再審請求審としでは異例の本人質問(非公開)を行った。
小林さんは2005年3月、西武池袋線内で女性の下半身を触ったなどとして逮捕され、強制わいせつ罪で起訴された。逮捕時から一貫して「指に痛みがあり、犯行は不可能」と否認。被害女性も、小林さんを取り押さえた乗客の男性も「犯人の顔は見ていない」と証言していたが、一審、二審で「実刑」判決を受けた。
元裁判官で弁護団長の秋山賢三弁護士は言う。「指に痛みのある小林さんが身体をひねらずに右後方の女性の下半身を右手指で触ったとする検察の主張は極めて不自然。目撃証言もブレるなど、合理的な疑いを排除できなかったにもかかわらず、裁判所は小林さんに有罪判決を下した。許し難いことです」。
小林さんは1999年ごろから指に痛みを感じるようになり、長く務めた小学校教師の職を「痛みでチョークが握れない。これでは教師の任に堪えない」と退職。裁判の途中で、膠原病の一種で難病に指定されている「全身性強皮症」と診断された。今回、弁護側は「当時から発症しており、(わいせつ行為をすることは)拷問に耐えるようなものだ」とする専門医の意見書も提出している。
だが、10年7月に最高裁で上告が棄却され、実刑が確定。強皮症に加え、控訴準備中に脳梗塞の発作にも見舞われた小林さんは一人では歩けず、支援者に支えられながら検察の階段を上って収監されたという。
小林さんの訴えは届くのか。結論は年度内に出ると見られている。
※週刊朝日 2013年2月15日号