芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』が映画化される。カギになるのは東北弁。原作者の若竹千佐子さんと、主人公の「心の声=寂しさ」を演じた宮藤官九郎さんが語り合った。AERA 2020年11月9日号に掲載された記事を紹介する。
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75歳の桃子さん(田中裕子)は夫を亡くし、一人暮らし。図書館と病院に行くだけの毎日に、突然、自分の分身が現れる。原作では桃子さんの思考が東北弁で重なり合うが、映画では「寂しさ」と名付けられた3人の分身に。宮藤さんは演じた3人の中で、唯一の東北出身だった。
宮藤官九郎(以下、宮藤):最初に原作を読ませていただいて、自分たちがしゃべっていた話し言葉が活字になっている、すごいな、字で読むとこういう感じなんだ、と思いました。あれは、岩手で話していた言葉ですか?
若竹千佐子:そうです。私の子どもの頃は、「おら」「おめ」で。
宮藤:実家は宮城ですが、自転車で5分走ったら岩手県という所で。岩手はどちらですか?
若竹:遠野です。私は、方言がなくなるのが嫌だと思っていて。
宮藤:映画なんかでも「この東北弁、違う」というのが気になっちゃうと内容が入ってこない(笑)。東北弁って、濁点が付いていればいいってもんじゃないですよね。
若竹:そうです、そうです。だから宮藤さんの朝ドラ「あまちゃん」が大好きで。木野花さんや渡辺えりさんは、隣のおばちゃんがしゃべってるようでした。
宮藤:木野さんは青森、渡辺さんは山形。東北出身なので、うまいんだと思います。
■強すぎる言葉ソフトに
若竹:私、宮藤さんと会うことになって、それなら東北弁でしゃべろうって思ったんです。
宮藤:あ、はい、お願いします(笑)。原作は、実は深刻な話なのに、シリアスにならずに読めました。それが東北弁を使った狙いなのかなと思ったんですけど。
若竹:私は笑いというものが、すごく大事なものだと思っていて。悲しみのながに、あ、ながに、って言ってしまった。
宮藤:大丈夫ですよ(笑)。
若竹:悲しみの中に、笑いがある。悲しみより劣った感情のように思われがちだけど、笑いの中の強さみたいなものを表現したいと思ったんです。それをおらは、書きたかったっす(笑)。