巷にあふれる、カタカナや英語のキャッチコピー。ネイディブにとっては「?」と感じることも少なくないというが、東京五輪の大会組織委員会や政府が関わる公のキャンペーンも例外ではない。元外交官で大阪学院大学外国語学部教授の多賀敏行氏が日本の英語をジャッジした。
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「菅政権には日本で蔓延するおかしな英語の駆除につとめてほしい。とくに最近の、東京五輪や政府のキャンペーンではヘンテコ英語だらけです」
元外交官で宮内庁侍従、東京都庁知事本局儀典長などを歴任した多賀氏は指摘する。多賀氏は外交官時代、福田赳夫、大平正芳首相の外国首脳への英語のあいさつ文の起案を担当。平成の天皇陛下のもとで侍従を務めたときは、上皇さまのあいさつ文の英訳を御用掛と一緒に担当した経験がある。
その多賀氏によると、日本のヘンテコ英語の最たるものが、五輪のモットーとして発表された「United by Emotion」だ。
11月16日、来日中の国際五輪委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と大会組織委員会の森喜朗会長が都内で合同記者会見し、新型コロナウィルス対策について言及した。うしろには、「United by Emotion」の文字が印字されたついたてが置かれ、テレビ画面にばっちり写り込んでいた。
多賀氏は、次のように説明する。
「『Emotion』は、制御の効かない不安定な感情を指す言葉です。そのため英語の世界では、『気紛れで不安な感情で結ばれて』というとんちんかんなモットーになってしまうのです」
「United by Emotion」は、「感動で結ばれて」という意味の、格好良いイメージで作ったコピーなのかもしれないが、残念な英語の典型のようだ。
「若い人は、感動することを『エモい』と表現している。『Emotion』を用いたのは、ここからの連想で英作文したのかもしれません」(多賀氏)
もう一つ紹介しよう。「HELLO,OUR STADIUM」。そう書かれた新国立競技場の案内ボードも異論の多い事例だ。
「これはhelloと呼びかけて競技場を擬人化した表現。しかし、建物を擬人化するのは、多くの外国人にとって気持ちが悪いという感覚のようで見学した外国人記者から苦情が出たとか」(同)