TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、村上春樹さんのラジオ番組について。
【村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』のイラストはこちら】
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松田龍平演じる辞書編集者が主人公の映画『舟を編む』に単語カードが出てくる場面がある。そこに「愛猫(あいびょう)」という言葉があった。映画のスタッフもきっと猫好きだったのだろう。
今週の本誌は「愛猫号」である。
写真家の岩合光昭さんに「猫の写真展って、どうしてこんなに人気があるんですか?」と尋ねたことがある。「犬は『うちの犬』なんだけど、猫は『うちの猫』も『他人の猫』も無条件に可愛いから人気なんです」という答えが返ってきた。
岩合さんのお宅に伺ったときのことだ。玄関では2匹の猫が迎えてくれて何とも言えない可愛らしさにほっこりしてしまった。後日、わが家の猫の写メを送ったら「キトラは人が良いと言われています」と岩合さん。「性格も飼い主に似ているのかな?」
僕はキトラの意味が分からず、「キトラって、あの古墳の?」とトンチンカンなレスをし、「黄色のトラ猫のこと!」と岩合さんに笑われた。
猫と言えば、村上春樹さんを忘れてはいけない。春樹さんの番組『村上RADIO』にはなんと猫がレギュラー出演している。名前は「猫山さん」で、気紛れに顔を出すのが「ヤマネコクロトさん」。ニャーとかぐるぐるとかいつも絶妙な相づち(鳴き声!)を打ってくれる。
20代で、まだ専業作家になる前、冬は猫と一緒に寝ていたんだと春樹さんが番組で話したときは、全国のリスナーが寒い夜に愛猫と寄り添った若き日の村上春樹をイメージしていると思ってジーンとした。
「当時は僕らは──僕らというのは僕と奥さんのことですが──ずいぶんつつましい、スパルタンな生活を送っていました」と春樹さんは『職業としての小説家』にも書いている。
「家にはテレビもラジオもなく、目覚まし時計すらなかった。暖房器具もほとんどなく、寒い夜には飼っていた何匹かの猫をしっかり抱いて寝るしかありませんでした。猫の方もけっこう必死にしがみついていました」