「ahamo」を発表したドコモの井伊基之社長(右)。若者向けのイメージを強調した/12月3日、東京都渋谷区 (c)朝日新聞社
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AERA 2020年12月21日号より

 NTTドコモが打ち出した新プラン「ahamo(アハモ)」が、業界に衝撃を与えている。データ通信20GBと5分以内の通話のセットで月額2980円(税別)、しかも5G通信にも対応という格安プランで、同業他社も無視できない状況だ。また受付をオンラインのみとしたことで、販売店減少を危惧する声も上がっている。AERA 2020年12月21日号では、アハモをめぐる様々な声を取り上げた。

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 販売店との軋轢を生んでしまう可能性が高いアハモだが、ドコモは吉沢和弘前社長の時代からオンライン契約に力を入れるなど販売店改革に舵を切っていた。携帯大手3社は熾烈な販売競争を展開するため、販売店の数を各キャリアで2千店規模まで増やしてきた。各キャリアは端末割引の原資などとして、販売店に毎年1兆円程度の額を支払ってきたという。

 アハモのオンライン契約専用という手続きからは、こうした販売店との関係を見直そうというドコモの姿勢が透けて見える。販売店関係者は「新型コロナで疲弊して廃業が相次いでいるのに、アハモでますます減ってしまう。都市と地方でスマホの使い方などITリテラシーの格差が広がることにもなりかねない」と弊害を指摘する。

 こうした声もあり、政府関係者は「行政手続きのデジタル化を教える場としても使えるのでは。やっぱりあれだけの数が街中にあるのは相談しやすい」と述べ、販売店の新たな活用方法を探る実証実験のための予算を、2020年度第3次補正予算案などに盛り込む方向で検討していることを明らかにした。

 ドコモは将来的に重荷となる販売店コストの削減を見込んで大幅な料金値下げを決断した格好だが、来年3月のアハモ提供開始後、本格的に影響が出る21年度4~6月期連結決算では、ドコモだけではなく追随した各キャリアも大減収となり、「アハモショック」と呼ばれる事態も予想される。

 ドコモ首脳は、他社からの乗り換えやオンライン契約専用によるコスト削減で、値下げによる減収分を補えると皮算用するが、ドコモ社内からも「幻想みたいな考え方だ」との声が漏れる。他キャリアからは「そもそもアハモの20GBは、自宅に光回線を引いていない若者にとっては不十分な容量だ」とプラン設計を疑問視する声も出ている。

■「アハモの大獄」避ける

 ドコモの井伊基之社長は、幕末に安政の大獄で、尊皇攘夷派らの弾圧を強行し、桜田門外の変で斃(たお)れた大老、井伊直弼の子孫として知られる。販売店やドコモのクレーム対応部署などにとっては「アハモの大獄」ともいえる状況だが、井伊社長はさまざまな調整を代理店など各方面と重ねることで、摩擦の少ないサービス開始を目指すとみられる。

 一方、消費者目線に立てば、アハモによる携帯料金値下げの波は各キャリアから格安スマホ事業者(MVNO)にまで及ぶ可能性が高い。5Gの本格普及により、固定の光回線が不要になることも想定されるため、携帯と固定を合わせた通信料金の月額負担額を自ら見直すことも必要となりそうだ。(ライター・平土令)

AERA 2020年12月21日号より抜粋

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