翌月には実際に後継者を探す農家を訪問。年間400万~500万円の売り上げが見込め、経費は100万円程度と聞いた。住む場所も準備され、家賃は農地の賃借料を含め年間数万円。これならやっていけそうだと、夫妻はそれぞれ会社に辞職届を出し、16年4月に勝浦町に引っ越した。役場のサポートも受けながら経営計画を立て、人材資金(経営開始型)の交付も決まった。夫婦の場合は年間225万円だ。

「畑をそのまま引き継げると言っても、車を買ったり、借りた古民家の改修をしたりで貯金はほぼなくなりました。人材資金がなければ、早くに生活に困っていたかもしれません」(翔さん)

 夫妻が栽培するのは収穫時期の遅い晩生みかん。収穫は11~12月ごろで、初めて現金収入を得たのは17年に入ってからだ。当初は出費ばかりだが、人材資金が夫婦の生活を支えた。

 ただ、人材資金の受給は20年で最後。19年は青果販売で420万円を売り上げたが、半分以上は経費で消える。夫妻は人材資金に頼らず生計を立てる準備を進めており、自宅1階を農業民宿に改装し、古本屋も始めた。そのほか、お祭りのときに屋台を出したり、自ら習得した床張りのワークショップを開いたり、昨年は「X」部分で約100万円を売り上げた。翔さんは話す。

「いろんな仕事もしながら、耕作面積を増やして所得を上げ、家計を安定させていきたい。地方なら手取りで400万円も稼げば、贅沢な暮らしができます」

 全国農業会議所による「新規就農者の就農実態に関する調査」によれば、就農1年目に要した費用の平均は569万円。一方、新規就農からおおむね10年以内の平均農業所得は年109万円で、「おおむね農業所得で生計が成り立っている」新規就農者は全体の24.5%に過ぎない。農水省の庄司裕宇(ひろたか)・農村計画課長は言う。

「コロナの影響で田園回帰の流れが加速している。400万円程度の所得が確保できるような支援策やモデルを提示できれば、新たな担い手としての半農半Xが増えていくのではないか」

 コロナ禍も追い風に、半農半Xが農業強化の切り札になろうとしている。(フリーランス記者・澤田晃宏)

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号