国内農業の生産基盤の強化が不可欠な中、新たな農業の担い手として期待されるのが、沼田さんのように農業を営みながら他の仕事にも携わり、合わせて生活に必要な所得を確保する「半農半X」などの多様な人材だ。
農水省は今年4月、「新しい農村政策の在り方に関する検討会」を設置し、半農半Xの本格調査を開始。同検討会座長で、『農山村は消滅しない』などの著書がある明治大学の小田切徳美教授(農政学・農村政策論)は言う。
「日本の農政は戦後一貫して専業農家の育成が中心で、兼業農家を減らす方針でした。それが、農水省が自ら指揮をとり、半農半Xの本格調査を始めるなど、大きな転換点と言えます」
折しも、新型コロナ感染拡大の影響で「低密」な地方に注目が高まり、農業への関心も高い。在宅勤務の普及で働き方も変わるなか、農業大国・北海道も動き出した。JAグループ北海道は「農業をするから、農業もする時代へ」をキャッチコピーに、別の仕事をしながら農業をする人を「パラレルノーカー」と位置づけ、7月には公式サイトを開設するなど、その普及に努めている。JA北海道中央会JA総合支援部の林亮年(あきとし)課長はこう話す。
「コロナの影響で外国人技能実習生の入国にも制限がかかり、人手不足が深刻化しています。観光産業や飲食業が大打撃を受ける中、副業の一つとして農業に関心を持ってほしい」
■最大のハードルは所得確保 資金と就職の両面で支援
半農半Xの広がりが国内農業の生産基盤の強化につながるのか。その答えを探るべく、全国に先駆け半農半Xを農家の担い手として位置づけ、手厚い支援を準備する島根県に向かった。
島根県では10年から、半農半X支援事業を開始。県外からのU・Iターン者で、就農時の年齢が65歳未満、販売金額50万円以上の営農を目指す人などを対象に、就農前、就農後のそれぞれ最長1年間、月額12万円を助成し、営農に必要な設備費用も上限100万円を助成している。島根県農業経営課の田中千之課長はこう話す。