Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 4/4号 [雑誌]
Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 4/4号 [雑誌]

 作家の亀和田武氏が、「ナンバー」(文藝春秋)4月4日号の“追憶の90's”を読んで、「横浜の人たちは必読です」と語る。

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 総合スポーツ誌の「ナンバー」だから、セナやジョーダン、野茂英雄などなど、90年代のアスリートが紹介されていて飽きない。しかし1本を選ぶならば、迷わず「横浜のミラクル・イヤー」だ。

 98年が奇跡の年だ。1月2、3日の箱根駅伝で神奈川大が総合優勝した。そして松坂大輔の横浜高校が甲子園で春夏連覇を果たす。ベイスターズも38年ぶりにリーグ優勝を決め、西武との日本シリーズまで制する。さらに消滅の決まったフリューゲルスが99年元日の天皇杯に勝利した。

 箱根駅伝の時点では、まだ一過性の興奮だった。横浜Fに在籍した山口素弘は、神大(ジンダイ)の優勝を聞いても「同じ横浜のチームとして自分たちも続くぞという気持ちまではなかったかなあ」と苦笑する。

 春に横浜高校が優勝したときも、熱狂はすぐに鎮まった。横浜育ちのクレイジーケンバンド(CKB)、横山剣もライブハウスの客が簡単にはノラないと指摘する。「なんか横浜は冷静なの」「終わった後に『最高だよ』って(笑)。クールだよね」

 甲子園の夏を制して空気が変わった。横浜高校3年生の小池正晃も球場に通った。スタジアムはベイスターズのファンでびっしり。「身震いがするっていうか、何これっ、おおおって。夏が終わってだんだん涼しくなっているのに、球場のなかは熱いんです」

 日本シリーズ優勝。車でクラクションを鳴らしてもOKだったその夜の喧騒を、横山剣が「日本じゃないみたいだった。LAみたいだった」と回顧する。スポーツ観戦や横浜にも無縁の私が、98年の横浜物語にシビれた。

週刊朝日 2013年3月29日号