長年ホームレス生活を送る武田さん(46)は、毎年の年末年始を東京・山谷(台東区)で過ごす。朝昼晩、いつもどこかで温かい炊き出しがあるからだ。コロナ禍の中、そんな風景にもある変化が見られると話す。
「例年は炊き出しに集まる人といえばホームレスか近くに住む生活保護受給者。高齢者ばかりで私は圧倒的に若手だったけど、この年末年始は30~40代の男性が増え、高齢者と若年層が半々くらいになった。コロナで職を失った人たちのようです」
炊き出しの現場にも、これまでにない緊張感が漂っているという。
「炊き出しを提供する団体は、コロナが1人でも出たら廃止になるから厳戒態勢。これまでなかった人数制限が敷かれる場所もあって、ホームレスじゃない人は断られることもあった」
1月1日と3日に東京都千代田区で「年越し大人食堂」と題して食料の配布を行った支援団体の一つである「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は、感染者数の増加とともに生活困窮者の相談件数も増えてきていると話す。
「普段は中高年の男性が多いが、昨春以降は20~40代の若年層からの相談が増えました。特に飲食店や接待を伴う店などサービス業に従事する非正規雇用者が多い。『大人食堂』には若い女性や子連れの姿もあり、20~70代の幅広い世代が来ていました」
生活困窮者への支援に取り組むNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長は2度目の緊急事態宣言の影響を懸念する。
「前回の宣言時は貯金を崩してなんとか生活できた人でも、もうお金が底をつき、先が見えなくなっている。今回は給付金の話すらない。年度末も近づいて、雇う側にも余裕がなくなっている。このままでは昨春よりも深刻な事態になってしまう」
行政も救済策を講じている。東京都が運営する「TOKYOチャレンジネット」は、新型コロナの影響で住居を失った人などを対象にビジネスホテルを一時提供している。
「年末年始用に約千室を用意し、12月21日から1月19日まで利用者を受け入れています。これを拡大するような形で緊急事態宣言に対応していきたいと思っています。宿泊の延長や、必要であれば部屋を増やすといった対応はできると思います」(「TOKYOチャレンジネット」の担当者)
前回は4月末から6月末までに延べ約1200室を提供したというが、稲葉さんはこう指摘する。
「現在は条件が緩和されましたが、昨春には都内で生活している期間が短いなどの理由で受付ではねられる人が続出しました。行政には、一人でも多くの人を救うために柔軟な対応をしてほしい」
(本誌・岩下明日香)
※週刊朝日 2021年1月22日号