その楠原の記録に追いつこうとしているのが、前出の村上めぐみと石井美樹(荒井商事/湘南ベルマーレ)のペアだ。2021年で結成7年目、東京オリンピックイヤーを迎えた。
村上・石井ペアは、楠原の言葉のように2015年に結成以降、チーム力を築き上げてきたペア。平均身長168.5センチと決して国内でも高いほうではないが、他のペアが解散や結成を繰り返す中、アジア、そして世界の階段を一歩ずつ駆け上がってきた。現在、FIVB五輪ランキング19位、東京オリンピック代表に一番近い最強ペアと言われるまでになった。
これまでの道のりを言葉にするといとも簡単だが、長い月日においてずっとチームはいい状態だったわけではない。上手くいかないときは目標をもう一度見つめ直し、パートナーの考えを受け入れながら気持ちを合わせるようにして幾度もハードルを乗り越えてきた。村上は長くペアを組むことについて、「長く組んでもただ一緒にいるだけでは効果は出ない」と語る。
「長くペアを組んで、多くのことを乗り越えてきたという事実は、折れそうになった時、乗り越えるパワーとなります。また、一つの言葉に関しての理解度、物事に対しての価値観の違いに気づきます。そこの違いを知らずに目を向けずに進むことでズレが生じます。2人の意見は違ってもいいのですが、お互いに知ること、伝えることがとても重要だと思います。そうするうちに、自分では気づかない自分を知ることもできる。自分がよかれと思ってやってきたことでさえ、自分基準の判断でしかない。チーム力を築き上げるにはその作業がとても大切だと思います」
長くペアを組むことで育まれるのは、チーム力だけではない。そこで成長を遂げる人間力は、2人でやる最少のチームスポーツだからこそ、勝つために欠かせない要素である。村上・石井ペアはそれを見事に証明してきた。
しかし、他方では世界に太刀打ちできないまま、ペアチェンジを繰り返す者もいる。日本のビーチバレー界にとってパートナーシップの質や人間力の向上は、もっと真剣に取り組まなければいけない課題かもしれない。(文・吉田亜衣)
●吉田亜衣/1976年生まれ。埼玉県出身。ビーチバレーボールスタイル編集長、ライター。バレーボール専門誌の編集 (1998年~2007年)を経て、2009年に日本で唯一のビーチバレーボール専門誌「ビーチバレーボールスタイル」を創刊。オリンピック、世界選手権を始め、ビーチバレーボールのトップシーンを取材し続け、国内ではジュニアから一般の現場まで足を運ぶ。