エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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1月20日、ジョー・バイデン米大統領の就任式で、詩人のアマンダ・ゴーマンさんは自作の詩を朗読した (c)朝日新聞社
1月20日、ジョー・バイデン米大統領の就任式で、詩人のアマンダ・ゴーマンさんは自作の詩を朗読した (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】アマンダ・ゴーマンさん

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 アメリカのバイデン大統領の就任式で詩を朗読した22歳の若き詩人アマンダ・ゴーマンさん。10代からその才能が評価され、大統領夫人ジル・バイデン博士の推奨で、史上最年少で就任式の詩を朗読。書き下ろしの自作の詩「The Hill We Climb」で、混沌と分断の最中にあるアメリカの人々に互いに手を差し伸べ合うよう呼びかけました。ハーバード大学で社会学を学んだゴーマンさんは、2036年の大統領選への出馬を考えているとのこと。“私たちは、奴隷の血を引き母子家庭で育った痩せっぽちの黒人の女の子が将来大統領になることを夢見て、こうして大統領のために詩を朗読している、そういう時代のこの国の継承者なのだ”という詩の言葉が印象的でした。2週間前にトランプ前大統領を信奉する白人至上主義者らが議会を襲撃したその場所で詩を読むゴーマンさんの眼前には、女性として、黒人として、そしてアジア系として米史上初めて副大統領に就任したカマラ・ハリス氏が座っています。そしてやはり米史上初めてフルタイムで大学の教壇に立つ大統領夫人となるジル・バイデン博士、主要政党で初の女性大統領候補ヒラリー・クリントン氏、黒人初の元大統領夫人ミシェル・オバマ氏も。ハリス副大統領の宣誓に立ち会ったのは、米史上初のヒスパニック系女性の最高裁判事、ソニア・ソトマイヨール氏でした。36年の大統領選後の就任式には「初」ではない様々な女性が参列しているのでしょうか。

 力強い朗読で人々の心を掴んだゴーマンさん。言語障害の克服の過程が今の自身を作ったと語っています。バイデン新大統領にも、吃音を克服した経験があります。不完全な己と向き合い、理想にはほど遠い現実に取り組まねばならない時には、深い学びがあるとゴーマンさんは示唆します。課題山積の大国の船出に感じた希望の光でした。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年2月1日号