まず、この年田中がラッキーだったのは、ポスティングのシステムが変わったことだ。それまでは、上限なしで最も高い金額を入札した球団のみが、選手と交渉できるルールだったが、この年から入札の上限を2000万ドル(約20億円)とし、NPB球団側が設定した入札額を了承した全ての球団が、選手と交渉できる制度となった。旧制度では前所属のNPB球団に支払う入札額がどうしても大きくなったが、新たなルールの下では年俸として選手の手元に行く金額が増えたのだ。
また、田中がメジャーに挑戦した年のFA市場には目玉となる投手が乏しく、それも追い風となった。最終的に田中はメジャーでのプレー経験がないにも関わらず、7年1億5500万ドル(約160億円)という破格の契約を勝ち取ることに成功した。
一方、田中同様、日本で“無双状態”だった日本ハム時代のダルビッシュ有(現パドレス)は2011年のオフにポスティングでメジャーに移籍。田中ほどの神がかった成績ではないが、日本最終年の成績は18勝6敗、276奪三振、防御率1.44と全くそん色のない数字だった。だが、当時のポスティングのルールは入札額に上限のないもの。最終的に5170万3411ドル(約54億円)という高額でレンジャーズが入札。ダルビッシュとの契約は6年5600万ドル(約58億円)というものだった。
田中とダルビッシュの契約額を年俸に置き換えると、田中の約2214万ドル(約23億円)に対して、ダルビッシュは約933万ドル(約9億7000万円)。田中が倍以上の年俸を稼ぎ出している。当時の2人の選手としての評価はほぼ同じと考えてもいいが、移籍するタイミングでこれほどまでに年俸に差が出ている。
メジャーリーグの選手でも当然、FAになったタイミングで年俸の“不均衡”が生まれている。最も運がよかった選手の一人とされているのが、先発右腕のホーマー・ベイリー投手(当時レッズ)だ。
ベイリーは2013年シーズン、先発投手の一角として11勝12敗、防御率3.49をマークし、FAとなった。前年にも13勝(10敗)を挙げているが、その年までに通算49勝45敗、防御率4.25と決してトップクラスの成績と呼べるものではない。だが、FA市場では先発投手は高く評価される傾向があり、田中もメジャーに移籍したこの年のオフは先述の通り大物投手がいない状況。最終的に、レッズと6年1億500万ドル(約110億円)という大型の契約を勝ち取った。