「女囚さそり」「鬼平犯科帳」などの代表作を持つ女優の梶芽衣子さん。70代を超えても、43年ぶりのオリジナルアルバムでロックに挑戦するなど衰え知らず。最新出演作「すばらしき世界」で感じた“ヒューマニズム”、撮影現場などについて語った。
>>【前編/「鬼平」は転機の作品 梶芽衣子“おまさ”役に「運命を感じた」】より続く
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チャキチャキの江戸っ子らしい口調で、少しせっかちに、ときにはにかみながら話す梶さんからは、どうしたって只者ではない個性がはみ出しているが、最新出演作「すばらしき世界」では、見事に普通のおばさんになりきっていた。映画は、これまでずっとオリジナル脚本を書き下ろしてきた西川美和監督が、長編映画としては初めて原作ものに挑んだ意欲作。罪を償って刑務所を出たひとりの男がどのように更生し社会になじんでいくか。その軌跡が描かれている。原作は、佐木隆三の『身分帳』だ。
「まだ台本をいただく前に原作を読んだときは、内心『これは重いわね』と思いました。でも、脚本をいただいたら『なるほどね』と。監督に最初にお会いしたとき『原作の重さをそのまま映画にするわけではなく、ユーモアを交えて、ほっとさせる部分が入ってきます』とおっしゃっていて、確かにその通りになっているなと思いました」
梶さんは、それを救いだと思った。また、登場人物のほとんどが善人であることも。
「『私たちってね、いい加減に生きてるのよ。あなた自身を大事にしてもらいたいのよ』という台詞があって、この映画は、これが言いたいんだなって。押し付けがましくない、素晴らしいヒューマニズムよね。監督の西川さんは、見た目は優しそうだけれど、私は厳しい方だと思いました。自分が思い描く映画に対して、きちんと厳しくいられるのはすごい才能」
と瞳を輝かせながら話した後に、「最近は、芸能文化が若者向けみたいになっていて、それがちょっと残念」とひとりごちた。
「若者もいるけどシニアもいる。どっちも大事じゃないですか。『すばらしき世界』は、大人の生き様をきちっと描いている。公開中の『罪の声』も同様で、登場人物一人ひとりがちゃんと描かれたヒューマンドラマです。素材は地味かもしれないけれど、こういう映画を残していってくださらないと困ります」