──そこから教育機関、文化施設、病院など地域産業と、多種多様な分野に仕事が広がります。

 一連の仕事で最も重視したのがロゴマークです。ロゴは小さくとも、商品やサービスの価値、企業の理念など、目に見えない大事なことを、一目で人の脳裏に刻むもの。たとえば今治タオルのロゴは、タグにすると横幅が1センチに満たない小ささですが、真っ白なタオルに付けると、それだけで高品質、信頼性が顧客に伝わります。数多くのロゴを制作してきましたが、簡潔明瞭のインパクトは、すべてに通じるものです。

──国立新美術館のロゴも可士和さんのデザインですね。

 この時は指名コンペで、条項に英名の頭文字「NACT(The National Art Center,Tokyo)」を使うという文言があったんです。でも、それだとニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)には敵わない。むしろ日本、東京なら漢字ではないかと「新」のアイデアも出したら、それが採用になったのです。

■要点は削ぎ落とすこと

──可士和さんのデザインは、実は背後に既定路線への鋭い批評性があります。

 それを、どう心地いいコミュニケーションに変換するか。そこを考え抜いています。

──コロナ禍で不安な状況は続いています。可士和さんはこの時代を、どうとらえていますか。

 未来のために、前を向いていく機会ととらえています。今回の展覧会も、来場者の方にクリエイティブのパワーが、鮮やかな問題解決につながることを、ぜひ実感していただきたい。その思いで、多くの方々の協力をいただきながら実現しました。

──ご自身がコロナで変わったことはありますか。

 これを機にスタッフは全員、リモートワークに切り替えました。オフィスのパソコン類は全部撤去して、どんどんミニマル化しています。デザインの要点は、削ぎ落とすこと。働き方をデザインすることは、30年前から僕の大きなテーマで、それも実践中です。

(構成/ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2021年3月8日号

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