指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第62回は、コロナ禍のこの1年のトレーニングを振り返る。
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標高1700メートルを超える長野県東御市での準高地合宿を3月17日に終えました。五輪代表選考会を兼ねた4月3~10日の日本選手権(東京アクアティクスセンター)に向けて、ここまで順調にきています。
4年ごとの五輪を目的に強化スケジュールを考えます。「予定通りの結果」がゴールです。「予定通りの計画」は目的ではありません。計画は状況を見て変えていくべきものです。
夏の競技会を終えて、翌年の4月の選考会に向けて始動する時期、ゴルフにたとえると1打目は、思い切ってドライバーを振っていきたい。フェアウェーを外してもリカバリーショットで修正すればいいからです。外さないようにとばかり考えていると、慎重になりすぎて力を伸ばせないことにもつながります。
アプローチの方法はいく通りもあります。代表選考会が迫ったこの時期は、もちろんグリーンを外してはいけないのですが、どんな状況になっても対応する心構えはできています。
合宿の終わりに、指導する7人の選手と私はオンラインで報道陣の取材を受けました。コロナ禍の五輪に向けた強化について質問があり、こんな話をしました。
2013年に東京五輪の開催が決まったときは、待ち遠しいと思っていましたが、コロナ禍で1年延期になり、また緊急事態宣言が出てオリンピックの開催が歓迎されていないような雰囲気もある中で、トレーニングを継続してきました。自分がそれまで抱いていたオリンピックへの思いが変わったことは事実です。
オリンピックはあこがれでした。00年シドニー五輪に北島康介と一緒に出場してからは、「自分の仕事場」だと思い定めてきました。そして、選手を最高峰の舞台に連れていってあげたい、という気持ちが強くなっていきました。