「これは、つまり運用しているってこと。なんて賢いんだと感動した。畑では穀物や野菜を育てて、完全に自給自足を成立させている。生活を少しでも良い方向に変えようと彼女なりに努力していた」

 日本の青年海外協力隊が運営していた職業訓練校のミシンを学べるコースに通ってもらった。もともと器用だったグレースは技術を会得。これならいけると、仲本がデザイン画を描いてバッグを作ってもらったものの、残念ながら日本で売れるクオリティーではなかった。

「彼女の技術が向上するのを待つしかないのか」

 途方に暮れる仲本の前に、2人の救世主が現れた。同じ訓練校にいたスーザンという女性が、「私もやりたい」とやってきた。試作を頼んだら、完璧に縫い上げてきた。もうひとりはサラ。レザーの縫製技術を学んだが、技術を生かせる仕事がないため売店の売り子をやるしかないという。10代なのに子どもを2人も育てていた。

 15年2月、仲本を含む4人でバッグ作りをスタート。貯金を崩しては布を買い、3人の給料を払っていたある日、縫製のエースであるスーザンが「インド系の縫製工場から引き抜きの話がある」と言う。給料は仲本が渡す金額の2倍だった。

「でも、断ったよ。私は千津と一緒にやる。昨日、外国人の女性(仲本)が私とやろうと言ってくれた夢を見たの。神様のお告げだと思う」

 こう話してくれたスーザンに、仲本は涙しながら感謝した。

「スーザンは、雨が降れば泥水が入ってくるような家に住んでいた。誰もが飛びつくヘッドハンティングなのに私を選んでくれた。この時、従業員を抱えることの意味を理解した。この人たちの人生を引き受けなければと強く思った」(文中敬称略)
(文・島沢優子)

※記事の続きは2021年4月5日号でご覧いただけます。

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