日本では、家族以外に頼れる人が少ないのも特徴だ。60歳以上を対象にした国際比較調査によると、病気になったときなどに同居の家族以外に頼れる人がいるかをたずねると、「頼れる人はいない」と回答した人は日本が最も多かった。
「友人」や「近所の人」と回答した人も、他国に比べて最も少ない。日本は、世界でも有数の「孤独に陥りやすい国」なのである。
「1990年代から非正規雇用で収入が不安定な若者が増え、日本は結婚が難しい社会になりました。一方で日本の社会保障制度は、欧州のように『社会保障は政府が担うもの』という設計にはなっていません。その結果、家族からの扶助や終身雇用を前提とした企業の福利厚生を受けられない人は、社会から排除されています」(石田教授)
孤独によって心配されるのは、身体的な側面だけではない。
東京都内に住む70代の元公務員の男性は、妻に先立たれた後、一人で暮らしていた。子供はいないが、毎月20万円程度の年金や都内の一等地に所有するマンションがあり、生活に困ることはなかった。しかし、退職してからは職場の仲間と会う機会もなく、孤独を感じていた。そんなときに、同年代の女性が近づいてきた。
この男性の生活支援をしていたNPOスタッフが話す。
「女性は、男性と親しくなった後、資産を管理する権利を求めました。さらに、男性の死後は財産のすべてを自分に相続することを条件に、結婚することを提案しました」
しかも、別の条件には、女性に指一本触れてはいけないというものもあった。それでも男性は、こう話す。
「財産のことなんてどうでもいいんです。一緒に話をして、出かけてくれる人がいればいい」
前出のNPOスタッフは言う。
「孤独な老人を狙って資産を奪おうとするケースはほかにもあります。信頼できる友人とか、つながりのある人がいれば違ったと思うのですが……」
若者から高齢者まで、孤独対策はすでに待ったなしの状態だ。
世界を見渡せば、英国が18年に世界初の孤独担当大臣を任命した。日本でも、今年2月12日に坂本哲志地方創生相が孤独・孤立問題の担当になった。実は、この孤独・孤立相は計画されていたわけではなく、ちょっとした「ハプニング」から生まれたといっていい。