■米広報会社が偽情報
コソボには隣国アルバニアのイスラム教徒が多数流入し、ユーゴスラビア内戦に乗じて独立かアルバニアへの併合を目指してコソボ解放軍を結成。97年に蜂起したが、約2千人が戦死、セルビア軍に制圧された。
ユーゴスラビア内戦でセルビアと戦っていたクロアチアは米国の広報会社「ルーダー・フィン社」と契約。同社は米国などでセルビア非難の宣伝に努め、セルビアが「民族浄化を行いつつあり、死者は50万人以上」などの偽情報を政官界、メディアに執拗(しつよう)に流した。
これに騙(だま)された米国は北大西洋条約機構(NATO)諸国を説いて、13カ国の250機が99年3月24日から国連の承認もなしに、79日間セルビアを猛爆撃し、セルビア軍をコソボから撤退させた。NATO軍はコソボに入りアルバニア系住民の協力を得て「大虐殺」の証拠を探したが、半年かけても発見した遺体は2108体で、大部分は2年前の戦闘の死者だった。
後日「ルーダー・フィン」社の幹部はフランスのテレビに出演、元々反イスラムだった米国などの世論を逆転させた経緯、手口を語り、「民族浄化というキャッチコピーが効き、米国のユダヤ人団体を反セルビアにしたのが決定的だった」と誇った。
虚偽の情報に踊らされてセルビア民間人約2千人、軍人546人を殺し、中国大使館まで誤爆したのは大失態だが、メディアも政治家も騙され、「人道的介入」を唱えていたから批判する声はほとんど出ず、今日でも民族浄化が本当にあったように思う人も少なくない。
■イラクでも面目を失墜
その反省がなかったから米国は03年3月、「イラクがなお大量破壊兵器を保有している」との亡命者の言葉を信じ、国連の反対を無視してイラクを攻撃。だが大量破壊兵器は無く、米国は面目を失墜した。8年後に撤退するまで自軍に約4500人の死者と3万人以上の負傷者を出し、10万人以上のイラク人を殺した。戦費は3兆ドルと計算され、財政危機を招いた。
ウイグル人に中国語を教え、就職をしやすくすること自体は必ずしも悪くはない。「それも文化的ジェノサイドだ」との論にも一理はあるが、米国は1846年のメキシコとの戦争でテキサスなど今日の6州を奪い、スペイン・インディオ系の住民に英語教育を行って米国市民意識を植えつけた。それを「ジェノサイド」とは言えまい。
日本も台湾、朝鮮での義務教育で日本語を教え「皇民化」を図ったが、民族の大量殺害の手段として巨額の経費と手間をかけたわけではなかった。
日本としては「人権問題を注視する」という姿勢で対応することが得策だろう。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)
※AERA 2021年4月12日号