米国は新疆ウイグル自治区で「ジェノサイド」が行われていると中国批判を強めている。 初の日米首脳会談に臨む菅義偉首相は慎重な姿勢を保てるか。AERA 2021年4月12日号から。
【写真】1999年、NATO軍の空爆に直撃されたコソボの住宅街
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菅義偉首相は今月16日から訪米しジョー・バイデン大統領との会談を行うが、その最重要の議題は対中国政策と思われる。米国は日本、インド、オーストラリアと連携する「QUAD」(4カ国戦略対話)を中核とする対中包囲網結成を策し、日本がどう協同するかが焦点だ。
米国の対中強硬論のスローガンは「ジェノサイド」(民族絶滅)だ。ポンペオ前米国務長官はトランプ政権最後の日、1月19日に「中国は新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル人に対しジェノサイドを行っている」との声明を出し、ブリンケン現国務長官もそれに同意を表明している。
日本では1月20日の記者会見で、加藤勝信官房長官が「人権問題に懸念し注視している」と慎重な回答をし、外務省も「ジェノサイドとは認めていない」との姿勢を示した。
ジェノサイドはナチスドイツが行った少なくとも150万人のユダヤ人殺害など、集団殺害を示す。米国の独立前に英国軍が先住民に天然痘患者の毛布、衣類を配り、免疫の無い先住民の人口が激減したり、オーストラリアで先住民がほとんど絶滅に瀕(ひん)したりしたのもジェノサイドと言えるだろう。
■格差が生じ反感高まる
新疆は古代中国で「西域」と称され、紀元前の漢の時代から断続的に中国の支配下にあった。1758年に清の乾隆帝がモンゴル人ジュンガル部を駆逐して西域を平定し、「新疆」(新領域)と名付け、1884年に新疆省となった。人口は約2500万人、うちトルコ系イスラム教徒のウイグル人は約1200万人とされる。石油、天然ガスの埋蔵量が豊富で近年急速に発展し、漢族の技術者などが移住、民族間の格差が広がり、ウイグル人の反感が高まった。
新疆の南、アフガニスタンではイスラムゲリラが1989年にソ連軍を撤退させ、91年のソ連崩壊で西隣のカザフスタン、キルギス、タジキスタンが独立したからウイグル人の独立願望に火が付いた。