漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「昔話法廷~『桃太郎』裁判~」(Eテレ 3月29日9:00~)をウォッチした。
【画像】号泣の桃太郎をあの人が厳しく追及!「昔話法廷~『桃太郎』裁判~」のイラストはこちら
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「さるかに合戦」の猿は、母ガニと幼い娘ガニ2人を殺した罪で死刑求刑。弁護側は猿の生い立ちに触れ、情状酌量を求める。
「赤ずきん」は、狼の腹に大量の石を詰め込んで殺した罪に問われる。しかし弁護側は、心神喪失による無罪を主張する。
よく知られた昔話をモチーフにした法廷ドラマシリーズ。今回の被告人は桃太郎(仲野太賀)だ。
検察官(天海祐希)、弁護人(佐藤浩市)によって、桃太郎が鬼1人を斬り殺し、30人以上に重傷を負わせた「鬼ケ島強盗殺人事件」の真相が明らかにされていく。
検察側証人は殺された鬼の妻(仲里依紗)。
「私たち鬼は人間からひどい差別を受けてきました。見た目や肌の色が違うと言って、鬼ケ島に隔離されました」
鬼と人間の共存を願っていたのに、鬼だというだけで殺された夫。しかし鬼から見た悪は、人間から見れば正義。「鬼たちによる暴力や盗みなどの犯罪に苦しんでいる人間もいる」と、弁護側。
さらに桃太郎自身も桃から生まれてきたことで、偏見の目で見られていた。「こいつ鉢巻き取ったらツノ生えてるんじゃね?」
SNSに寄せられるいわれなき誹謗(ひぼう)中傷。そこに届いた鬼からの襲撃予告。桃太郎は自分への偏見をくつがえすため、鬼退治に出かけた。
これは情状酌量ありかと思ったところで、意外な事実が明かされる。鬼の襲撃予告は、桃太郎の自作自演だった。
「鬼退治をすれば英雄だと手のひらを返す。大衆が右往左往する様をあざ笑ってやりたかった」
差別とは、人間とは、いかに愚かなものなのか。
「俺は、俺なのに」と、うめくように号泣する桃太郎。涙と鼻水の大洪水。
そんな彼に、天海検察官が鋭く言い放つ。「でも、それが鬼を襲っていい理由になりますか?」
二転三転する真相。差別、偏見、SNSでの誹謗中傷にフェイクニュース。これは昔話ではなく、今現在を照らした物語だ。重い、深い、役者の演技がとてつもなく熱い。
天海に詰められたら絶対有罪だけど、佐藤浩市の弁護ならワンチャンあるかもと思える丁々発止。
こうなったらもう映画にして、とことんやり合ってほしいくらい。
そしてこの法廷を知った後、携帯電話auのCMの桃太郎を見るたびに、なんだか複雑な気持ちになっちゃうよ。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2021年4月16日号