白血病で東京五輪を一度はあきらめながら、代表切符をつかんだ池江璃花子選手。その泳ぎを支えたのは、修正力と勝負勘、変わらぬ肩甲骨の動きだった。AERA 2021年4月19日号では、池江璃花子選手の復活の秘密を関係者に取材した。
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白血病の療養から復帰した競泳女子の池江璃花子(いけえ・りかこ20)=ルネサンス=が東京五輪代表に内定した。2016年リオデジャネイロ五輪に続き2大会連続出場となる。19年2月に病気を公表してからまだ2年。レースに復帰してから、およそ半年しか経っていない。なぜ復活できたのだろうか。
4月4日に東京アクアティクスセンターであった日本選手権女子100メートルバタフライ決勝。池江は57秒77で優勝し、涙を流した。個人種目での派遣標準記録(57秒10)には届かなかったものの、メドレーリレー(57秒92)で突破した。復帰後初めて同種目に臨んだ今年2月の東京都オープンでは59秒44。それを1秒以上も縮める「奇跡の泳ぎ」だった。
■驚異的なタイムの短縮
「復帰から数カ月でここまでタイムを縮められるのは成長過程のジュニア選手ならあり得るかもしれませんが、一般的には厳しいです。すごみを感じました」
00年シドニー五輪競泳代表の萩原智子さんはそう驚く。萩原さんは04年に現役を引退した後、5年後に復帰した経験を持つ。長いブランクを経て第一線に戻るには多大な努力が必要なことを身をもって知る一人だ。
「バタフライはクロール、背泳ぎ、平泳ぎの4泳法のなかで最も体力を消耗します。特に短距離はほんの少しの動きの違いが結果に響く、最も厳しい種目でもあります」
なぜ好タイムを出せたのか。飛び込んだ直後に潜水しながら打つドルフィンキックに秘密があるという。萩原さんは言う。
「回数を変えたそうです。(スタート直後の潜水で)ドルフィンキックを15メートル以上すると失格になりますから、一発勝負の本番でできる修正力と勝負勘が非常に優れています」