東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 コロナ感染の第4波が来たようだ。新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が4月14日の衆院内閣委員会で表明した。

 大阪府では13日に新規感染者数が1千人を突破、隣接する兵庫県も14日に500人を超えた。大阪府の重症病床使用率は9割を超え、再び医療崩壊が懸念されている。首都圏に波が及ぶのは時間の問題だ。今年のゴールデンウィークも、ふたたびステイホームで乗り切るほかあるまい。

 それにしてもあまりにドタバタな状況である。緊急事態宣言が一部府県で解除されたのが2月末。首都圏では3月21日だ。それなのにわずか2週間後の4月5日には大阪市など3府県の6市でまん延防止等重点措置の適用が始まり、12日には東京23区と都下6市も続いた。

 それでも拡大は収まらず、いまや緊急事態宣言再発令を望む声が強い。しかしそれならば最初から解除しなければよかったのではないか。春は行楽シーズンに加え、年度替わりで歓送迎会も相次ぐ。このタイミングで解除すれば、拡大は火を見るより明らかだったはずだ。逆にそれでも解除するのであれば、病床確保を進めるなど、多少の拡大に耐える準備が必要だったはずである。週単位で政策がくるくる変わるのでは予定も立てられない。

 加えてワクチン接種の遅れもある。英国や米国ではすでに人口の半数に接種が終わり、効果をあげている。中国でも6月末には4割に接種を終える予定という。

 他方で日本は14日現在で累計接種回数が約170万回。2億回近い米国の100分の1以下だ。1日の回数も6万回程度で、このペースでは集団免疫獲得に何年もかかる。接種体制の整備が急務だが、肝心のワクチンが入ってこない。なぜこんなことになっているのか。

 感染拡大は自然現象だ。とはいえ、医療体制も整えずワクチンも調達せず、ただ我慢しろとしかいわない政府と専門家に国民は呆(あき)れ始めている。

 今後緊急事態宣言の再発令があったとしても、行動変容の効果は限定されるだろう。それは人々がコロナを甘くみているからではない。政府を信用しなくなっているからなのだ。

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2021年4月26日号