三茶ファーム千田弘和さん「三軒茶屋は古さと新しさが共存する町。通称三角地帯と呼ばれるこの商店街は、戦後の闇市が発祥。昔ながらの人のつながりが残っているんです」と、千田さんはうれしそうに話す(撮影/写真部・東川哲也)
三茶ファーム
千田弘和さん
「三軒茶屋は古さと新しさが共存する町。通称三角地帯と呼ばれるこの商店街は、戦後の闇市が発祥。昔ながらの人のつながりが残っているんです」と、千田さんはうれしそうに話す(撮影/写真部・東川哲也)
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 近頃、街にスタイリッシュな八百屋が増えてきた。いずれも、扱う野菜は店主自ら産地へ出向き、集めてきた無農薬、自然栽培などこだわりの品々。なぜ今、八百屋なのか。

 生産地と消費地、両方を元気にしたいと、今年1月、東京・三軒茶屋に八百屋「三茶ファーム」を開いたのは、青森県出身の千田弘和さん(35)だ。

 システムエンジニアをしていたが、「東京の人は忙し過ぎて元気がなく、地元は仕事がなくて元気がない」ことが気になっていた。自分にできることを、と考える中で農業に関心を持つ。

 農業のワークショップへ通うなどして、知識と人脈を増やして会社を辞めた。その後1年間、知人の畑で農作業も経験し、自分にできるのは産地と消費者をつなぐ仕事だと思い定める。
 
 2010年末、駒込で開業。三軒茶屋で八百屋をしていた友人が閉店すると聞き、家が近いこともあって現在の場所へ移ってきた。

 生産者には必ず畑に行って会い、「持続可能な農業をしたい、おいしいものを作りたいといった志がある人」と契約する。

 周囲が有機農法を敬遠する時代から信念を持って取り組んできたベテラン農家。試行錯誤の末、「農薬や肥料を使わなくても野菜はできる」と自然農法に目覚めた若い農家。面白い人に数多く出会ってきた。

「野菜は、作る人によって味も違うんですよ。その魅力を、お客さんに伝えたいんです」

 千田さんは、ITビジネスでも起業し、栽培履歴の電子化プロジェクトや野菜の需給バランスシートのシステム作りに取り組む。ITでコスト低下を図る一方で、消費者の意識改革に取り組みたいと話す。

「野菜には安さを求める人が一番多く、よいものに魅力を感じる人はまだ少ない。このジャンルで、経営として成り立つビジネスモデルを作らなければならない」

AERA 2013年6月3日号