■飲み会嫌いの原因?

 そんな客も店もウィンウィンのはずの飲み放題だが、利用機会が減っても全く問題なし、むしろ歓迎という声も実は多い。

料理付きで5千円以下の飲み放題だと、出てくるのは安い酒にいまいちな料理。まったく魅力を感じない」(30代男性)
「メニューや時間に制約がある飲み放題はいや」(20代女性)
「お酒が弱いから2時間の宴会でもウーロン茶2杯で十分。バカスカ飲む人と同じだけ払うのが納得できない」(30代女性)

 飲み放題が避けられるようになった背景には何があるのか。

 酒文化に詳しい社会学者で早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授はこう話す。

「安い飲み放題が広まったのは『飲む人が少し多く出す』とか『飲まない人はデザートを追加で頼んで不公平感をなくす』といった客側のマネジメント能力が低下し、最初から決まった値段で安く済ませたいというニーズが高まったからです。そこに、楽に客を集めたい店の思惑が重なった。利害が一致している以上、なくなることはないでしょう。ただ、ロークラスの飲み放題が『居酒屋嫌い』『飲み会嫌い』を増やしている。おいしい料理を食べたい人やゆっくりお酒を楽しみたい人にとって安い飲み放題はうれしくありません」

■おいしい料理と一緒に

 今後、飲み放題は「安く大量に飲む場」から「おいしい酒を飲み比べる場」に変わるとみる。

「二極化が進み、低賃金の若者は安い飲み放題もなかなか利用できない。一方、いい酒を飲み、知識を持つ若者も増えています。コロナ禍の前から、例えば料理別で2500円程度を出して数十種類の地酒を小さなグラスで楽しむ店が人気でした。おいしい酒を飲み比べる場としては、飲み放題は優れたシステムです」

 江間さんも飲み放題がなくなることはないとしつつこう話す。

「メリットはありますし、お店から相談を受ければ『選択肢として用意しておくといい』とアドバイスします。ただ、コロナが落ち着いても大人数の飲み会が以前のように行われるかは疑問だし、仲の良い少人数で飲むときに安い飲み放題が積極的に選ばれるとも思えない。基本的なベクトルとして利用機会が減るのは間違いないでしょう」

 そのうえで利用方法については橋本教授と同様の指摘をする。

「従来は、『5千円でどれだけのサービスができるか』を考えるのが飲食店のコアゾーンでした。それがここ10年ジワジワ上がり、今は7500円くらいが主流です。安い飲み放題の利用機会は減る一方で、おいしい料理に充実した飲み放題を付けて飲食を楽しむ利用方法は変わらないと考えています」

 コロナ禍で、飲食店へは時短営業や酒類提供の中止など厳しい要請が続いている。飲み放題を利用するにせよ、しないにせよ、思う存分飲食を楽しめる日々が早く戻ってきてほしい。(編集部・川口穣)

AERA 2021年5月17日号