飲み放題の宴会なんて、夢のまた夢という昨今。ただ、コロナ禍以前から酒の飲み方の変化は始まっていた。安い酒を大量に飲む派より、ゆっくり飲み比べする派が増えている。AERA 2021年5月17日号で取材した。
【写真】コロナ禍の東京・歌舞伎町。店内での飲酒が制限され、路上で飲む人も
* * *
何杯飲んでも値段は同じ。ならば、とジョッキを傾け、冷たいビールをのどへ流し込む。ラストオーダーまで30分、あと2杯は飲みたい。慌ててジョッキを空にする。
コロナ禍前の日本では、宴会と言えば「飲み放題」が定番だった。そんな、日本の飲み放題文化が、いま岐路に立っている。
最大の打撃は、何といってもコロナ禍。飲み放題は特に大人数での宴会で利用されることが多いが、宴会やパーティーは軒並み中止になった。東京商工リサーチが2020年11月に行った調査では、前年に忘年会または新年会を行った企業7887社の85%以上が20年は開催しない予定とした。
ただ、それ以前から逆風は吹いていた。世界保健機関は10年の総会で「アルコールの有害使用を減らす」ため、酒の安売りや飲み放題禁止を提言した。それと前後するように、フランスでは09年、イギリスでは10年に飲み放題提供が禁止されている。
一方、日本では一時的に議論が盛り上がったことはあるものの、具体的な動きは出ていなかった。だが、キリンホールディングス傘下のキリンシティは3月、直営のビアレストラン27店とフランチャイズ店6店で飲み放題の提供を終了した。キリンでは飲酒時間をゆっくり楽しむ「スロードリンク」を掲げており、今回の飲み放題廃止も適度な飲酒を呼びかける狙いがある。
「もちろん飲み放題をすべて否定するものではありませんが、アルコールを提供するメーカーとして適正飲酒への配慮は不可欠です。適正飲酒啓発と次世代へのお酒の文化継承に取り組んでいくなかで、『安心してご飲食いただける環境づくり』のために今回の決定にいたりました」(キリンホールディングス)
コロナ禍のなかで「たくさん飲んで大声を出す」ことへの懸念が利用者から寄せられたことも、理由のひとつだという。
■店にも「おいしい」
日本最大級の日本酒イベント「にいがた酒の陣」も、19年の開催後に、20年以降は飲み放題を廃止して試飲回数券制に移行すると発表した(20、21年はコロナ禍で開催中止、今夏以降に別の形での開催を検討)。