去年の今ごろよりも、新型コロナウイルスの感染状況は明らかに悪い。重症患者も死者の数も比べものにならない。病院に入ることもできず自宅で死亡する人も増えている。体調が悪く、経済的に圧迫され、心理的な不安を抱える人の声がどんどん大きくなっている。それなのに、去年の今ごろよりも政治が機能していない感はすさまじい。行政もフリーズしているのを肌で感じる。

 そしてオリンピックとは。

 5月23日放送のNHKの「日曜討論」で、「オリンピックは現実的ではないのではないか」という識者の意見が連続して出された後の加藤勝信内閣官房長官の発言は衝撃だった。彼はほぼ無表情、平常心でこう言ったのだった。

「政府の立場としては(ゴニョ)もうすでにIOCがこの7月から開催する(ゴニョ)そして関係者が努力をされてますから(ゴニョ)それに対して安心安全な大会(ゴニョ)国民のみなさんが安心してもらえる状況をつくるために努力してまいります(ゴニョ)」

(ゴニョ)とは、言葉は発していないが、語尾をあえてぼやかしている印象のしゃべり方だったので、そう記した。明確に自信をもってなぜこう言わないのか。「IOCのバッハ会長が7月に開催すると断言しているので、やるしかないのです。関係者もみんなやる方向で頑張っているから、やるしかないのです」。そう言っているようなものなのだから。

 まだ安倍さんの時代のほうがましだった、と言いたくもなる。安倍さんだったら、五輪反対の声が大きくなるほど安倍さんの声もうわずり、汗をかきながら、相手を見下すように半笑いしながらも、大きな身ぶり手ぶりで、「ですからですね、五輪はですね、アンダーコントロールでやるのであります!」と叫んでくれたのではないかと思う。まだ感情が見えた。菅政権になってから、誰の顔からも表情が消えた。心もなくなった。光のない瞳で「安心安全な大会」をぼそぼそとつぶやく不気味な人たちに、破滅への道にひきずられているような気分になる。

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