

映画界の俊英がファッション業界の暗部に切り込んだ。金に目がくらんだ人々をアイロニカルに描きつつ、内実をリアルに暴く。AERA 2021年6月21日号に掲載された記事を紹介する。
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「胸を新しくした?」「それって入れ歯? 取り出してみて」
金さえあればなんでもできる。大金持ちにとって肉体改造はスーパーで買い物するのと変わらない。
映画「グリード ファストファッション帝国の真実」は、ファストファッションで巨万の富を築いた大富豪リチャード・マクリディ卿(スティーブ・クーガン)が主人公。ギリシャ・ミコノス島を舞台に、彼の60歳の誕生パーティーを巡る6日間を描く。モデルは昨年経営破綻(はたん)した英アパレル大手「アルカディア・グループ」のオーナー、フィリップ・グリーン卿。ファッション業界を通して新自由主義によって分断された現代社会の歪みを浮き彫りにするブラックエンターテインメントだ。
■金持ちってこうだよね
監督は「グアンタナモ、僕達が見た真実」や「24アワー・パーティ・ピープル」など社会派からエンタメまで様々なジャンルの映画を撮ってきた英国のマイケル・ウィンターボトム。新自由主義によって広がった不平等性に関心があり、友人のジャーナリストと話している中で耳にしたグリーン卿のキャラクターに興味をもったと話す。
「いわゆる“見せびらかし系”の人物というのかな。彼はセレブの友人やグラマラスなパーティーを通して『金持ちってこういうことだよね』というイメージを持たせた。そんな彼と、実際の労働者の姿を組み合わせることで何か面白いものができるのではないかと思ったのです」
英国がサッチャー政権になり、グローバル化が進み始めた1980年からマクリディの金もうけは始まる。仕入れ先を徹底的にたたき、1日たったの4ポンド以下で働くスリランカの女性たちが作った服でヨットに乗り、ギリシャの島で誕生パーティーを開く。手品のように違法スレスレの手口で配当金を稼ぐのもお手の物だ。