一方、デルタ株の影響が皆無でも、宣言解除後の人の流れが徐々に15%まで増えれば、五輪開幕直前にはステージ4相当になるという結果だった。五輪の影響が加われば、8月中旬までには1日の新規感染者数が千人に達する可能性があるという。
■基本は人と接触しない
変異株が増えていく中、どう対処すればいいのか。ウイルス全般に詳しい河岡義裕・東京大学医科学研究所特任教授(ウイルス学)は、こう指摘する。
「あらゆる感染症対策の基本は、感染している人と接触しないことです。それが難しい感染症もありますが、新型コロナウイルスの場合、はしかウイルスのようにすれ違っただけで感染するということはありません。無症状の感染者はいますが、誰もが感染している可能性があると考え、基本にかえり、感染予防対策をしっかりと取れば、デルタ株がまん延しても感染拡大を抑えることができます」
新型コロナウイルスは主に飛沫を介して感染するので、人と適度な距離をとる、他人のいる屋内で大声で話したり歌ったりしない、公共の場ではマスクをする、といった対策が基本だ。
ただし感染症は、集団として基本的な感染予防対策を取ることが欠かせない。それには、国や自治体から、現時点でどのような対策が求められるのかを明確にすることが重要だ。
感染者数が下げ止まり、微増の気配すらみえる東京でも緊急事態宣言が解除され、五輪は有観客の可能性が高い。そこから人々が受け取るメッセージは、感染防止対策の徹底とは逆だ。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志26人は18日、五輪開催に関して提言を公表。日本の新型コロナ対策は人々の自発的な協力に大きく依存していると指摘し、大会主催者や政府、自治体に、大会開催に伴って人々に「矛盾したメッセージ」が届かないような対策を求めた。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2021年6月28日号より抜粋

