「食は、技術的にものすごく難しい領域です。だからチャレンジのしがいがある。私自身、料理はとても好きですし」
と、笑う。
彼女は、徹底したこだわり派だ。やりたいと思ったら、徹底的にのめり込む。とことん極める。コーヒー好きが高じて、焙煎の学校に通った。天然酵母のパンづくりにも挑戦する。「こんな感じの素朴なパン」といって、スマホで写真を見せてくれた。のぞきこむと、こんがりと焼きあがったハード系のパンが写っている。
「趣味をきわめていくことで、新しい知識が入ってきて、それがそのまま、仕事にも結びついていくような気がしています」
彼女のキャリア人生も、チャレンジの連続である。やりたいことを見つけて、自分の手でチャンスをつかみとってきた。これがしたいと手をあげるのが、ソニー流の働き方だ。
「自分が思い描く将来を一緒に築けるのが、ソニーという会社なのかもしれない」
という。
日本の会社員は会社がお膳立てしたキャリアに、ベルトコンベアに乗っているかのように従う。しかし、ソニーの人たちは違う。男女を問わず、自分のキャリアは自分でつくる。
「ソニーでは、仕事は自分で見つけるものだといわれたことがあります」
■創業者を知らずに
ソニーが「社内募集制度」をスタートさせたのは、1966年のことだ。自ら手をあげ、希望する部署やポストに応募できる。上司の許可はいらない。社内転職のようなイメージだ。この制度を活用して部署を異動した社員は、これまでに7900人を超える。
仕事は楽しいのが一番、やりたいことをやるに限る。仕事がおもしろいと思う人の熱量はすさまじい。ソニーを元気にしているのは、そんな人たちだ。
入社1年目、彼女は、広報で社内報を担当。前年亡くなった創業者、井深大の追悼号の翻訳が最初の仕事だった。エッと思う発言が出る。「でも、私、恥ずかしながら、当時、井深さんが誰なのかを知らなかった」と、彼女はあっけらかんと振り返るのだ。
2年後、社長室に異動し、95年に代表取締役社長COOに就任した故・出井伸之のスピーチライターに抜擢された。後日知るのだが、推薦したのは、当時、社長室長だった吉田憲一郎(現ソニーグループ会長兼社長CEO)である。