作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。8人目のゲスト、シンガー・ソングライターの小椋佳さんは50歳で東大に戻り、大学院でも学んだそうで……。
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小椋:僕、東大に通算10年行ったわけだな。最初4年で卒業して、50歳で学士入学し、大学院にも行って。
大宮:なんで東大に戻ったんですか。
小椋:哲学やりたくて戻ったの。でも、文学部の入学試験科目に、外国語が二つも入っているんだよ。
大宮:えーっ。
小椋:9月に銀行を辞めて、翌年の1月に入学試験でしょ。銀行で英語はずいぶん使ってきたからいいとしても、もう1カ国語を4カ月でマスターするのはちょっと難しい。
大宮:無理ですよ!
小椋:それで、僕と同期の、のちに名誉教授になった哲学の主任教官に相談したら、そいつが「卒業した学部に再入学するなら、筆記試験はない」って言うんだよ。僕は法学なんかもう絶対やりたくない。そうしたら、またバカだなって言われてね。東大に入っちゃえば、いくらでも文学部に聴講に行けるじゃないかと。
大宮:ああ、なるほど。
小椋:だから入っちゃえばいいんだということね。法学部にまず入ったの、面接だけで。それでほとんど文学部の授業を受けてた。
大宮:へー!
小椋:ところがね、東大に入り直して、勉強しだしたら、面白くてしょうがないんだよ、これが。昔、大っ嫌いだった法学がさ。
大宮:いい話。
小椋:法学部って、公法、私法、政治学と三つのコースがあるの。僕は1度目は私法、2度目は政治学コースを取ったわけ。50歳になって、学生に戻ったら、授業が面白くてしょうがなくてさ、何か。授業が終わったら図書館に行って。朝一番から夜まで皆勤賞。
大宮:先生もプレッシャーですね。小椋佳が見てるって思うとね。
小椋:30年ぶりに大学の授業を見たら、最初はつまんなかったんだよ。30年前と同じ教え方をしてるわけ。教室に来る学生の数が、月ごとに減っていくんだよね。それで研究室に行って言ったわけ。「先生、教え方変えなきゃダメだよ」って。大学の講義っていうのもエンターテインメントだ、と。100分の授業が終わるまで、一瞬たりとも学生が飽きない講義はこうやるんだって。