東京で行われた支援者らによるデモ(2019年6月)(c)朝日新聞社
東京で行われた支援者らによるデモ(2019年6月)(c)朝日新聞社
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保管されていたカネミ油(C)朝日新聞社
保管されていたカネミ油(C)朝日新聞社
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している

 国内最大規模の「食品公害」、カネミ油症を知っていますか。汚染された食用油を食べた人に健康被害が出て、1968年に発覚しましたが、過去の公害ではありません。最近、ようやく「次世代」の被害者救済に向けた厚生労働省の調査が決まりました。なぜ、このような公害が起きたのか。徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)が原因化学物質について説明します。

【実物写真】保管されていたカネミ油の一斗缶と瓶

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 福岡県北九州市のカネミ倉庫が販売した食用の米ぬか油を口にした人に、吹き出物、顔面などへの色素沈着、手足のしびれ、めまい、肝機能障害などの健康被害がでたカネミ油症は、1968年に発覚、西日本を中心に被害が拡大し、約14000人以上の方が被害を訴えた国内最大規模の食品公害です。

 しかも、カネミ油症の母親から全身黒褐色の赤ちゃんが産まれ、2週間ほどで死亡した事例が発生し、社会に大きな衝撃を与えました。このカネミ油症の公害は、「YUSHO」と呼称され、国際的にも関心を集めました。

 誤解を与えないように、まず説明しておくと、健康被害の原因物質は食用油の原料の「米ぬか」ではありません。食用油の製造工程で混入した化学物質です。

 良く知られているように、米ぬかには独特の臭いがあります。この米ぬか油から臭いを消すには、油自体を高温にさらすことが不可欠であり、そのためには脱臭装置の蛇管の中を高温の熱媒体を通す必要がありました。カネミ油症の原因は、この脱臭装置の蛇管から、熱媒体として使われた化学物質が漏れて油に混入したためでした。混入した化学物質は、鐘淵化学工業(現・カネカ)で生産された人工物質ポリ塩化ビフェニール(Polychlorobiphenyl、略してPCB)でした。

 汚染された油は西日本を中心に広く流通され、福岡県以外にも被害をもたらしました。この米ぬか油を摂取した患者は現在まで長きにわたり、さまざまな後遺症に悩まされているのが実態です。

■ 汚染油を食べていない次世代にも…子や孫らの調査へ

 2021年1月8日の朝日新聞、6月26日の毎日新聞に、カネミ油症に関する厚生労働省の方針が報道されています。

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