社会学者の上野千鶴子氏(C)朝日新聞社
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五輪中止を求めるオンライン署名を呼びかけた弁護士・宇都宮健児氏(C)朝日新聞社
五輪中止を求めるオンライン署名を呼びかけた弁護士・宇都宮健児氏(C)朝日新聞社

 東京五輪の中止を求める署名活動が7月2日からオンラインサイト「Change.org」で始まった。元外交官の飯村豊さんを幹事とする、学者や作家ら13人が呼びかけ人として立ち上がった。東京都では2日に660人の感染者が確認され、前週の金曜日(6月25日)と比べて98人増え、13日連続で上回った。開催を目の前にして、パンデミックの危険性が増す状況を大会主催者側が直視し、中止することを求める署名で、3日10時現在、2万3千人以上の賛同者が集まっている。

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 呼びかけ人の一人である社会学者の上野千鶴子さんは、開催間際に署名運動を始めた理由をこう語る。

「『今さらもう遅い』『既定路線だから』『何を訴えても無駄だ』という無力感が漂っています。でも、諦めずに言うべきことは訴えるべきです。私は、戦後生まれの人間ですが、自分たちの親に対して、どうしてあの戦争を止められなかったのかと問い詰めた世代です。後から来る世代に、どうしてパンデミック最中の五輪開催を止められなかったのかと問われる日が来るでしょう。中止を求める市民の感情をちゃんと可視化できる場が必要ですし、たとえ、開催前夜でもNOを言っていた人がいたということだけでも、歴史の痕跡として残すべきだと思ったからです」

 さらに、開催に突き進む菅政権に対し、「政治は、信念と情熱だけでなく、結果責任を負うべきだ」と訴える。

「新たな変異株による急速な感染拡大とワクチン接種の遅れなど、環境条件が刻々と変わってきました。客観的な条件が変われば、戦略と戦術を変えるのは当然なのに、楽観論で押し切ろうとしているのは、五輪後に総選挙が控えているので、すでに五輪開催が政局の一部になってしまっているからです。リスクは確率論ですから、ゼロはありえない。一か八かの賭けで、賭け金に差し出されたのが国民の生命と健康です。仮に、五輪関係者を受けいれたホテルの従業員や大会ボランティアにコロナ関連死が出たとしても、残念ながら因果関係を立証できないため、労災にもならず、誰も責任はとらないでしょう」(上野さん)

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1年延期が決定した背景は…