東京2020オリンピック閉会式でソロパフォーマンスを披露したアオイヤマダさん。その人生を振り返ると、ダンスや唯一無二の表現者との出会いが、そのときどきで迷う自分を目覚めさせた。
子どもの頃、言葉を発することが怖い時期があった。小さい彼女が何かを発言すると、それを誰かが受け止める。「そういう意味じゃないのに、そう取られてしまった。困ったな」と思うことが何度かあった。間違って伝わる怖さが言葉にはある──。その経験が、一種のトラウマになった。
「相手の顔色をうかがいながらしゃべる子どもだったと思うんですよ。自分が言ったことに対して、どういう反応が返ってくるんだろうって考えると、常に怖くて。家でも、保育園でも、言葉を発しづらかった。そんな中でダンスに出合って、『ダンスって優しいな』『何も決めつけなくて、感じるままに身体を動かせる』『自分が思っていたのと違うふうに理解されても、それはそれで面白いな』『こんなに柔らかい表現方法があるんだ!』って思って。そこから一気にダンスが好きになって、のめり込んでいきました」
アオイさんが生まれ育ったのは長野県松本市。そこで子どもが習うダンスといえば、ヒップホップが主流だった。
「いくら好きなダンスといえども、スタジオでのレッスンが続くと、なんだか息苦しさを感じるようになって……。思い切って環境を変えようと、高校進学を機に上京したんです。ダンスの専門学校に進んで、寮生活をしていると、今度は、『やりたいダンスってこれなのかな?』ってまた気持ちがフワフワし始めた。そんなとき、今のマネジャーさんに出会って。『あなたはこういうのが好きなんじゃない?』って、山口小夜子さんや勅使川原三郎さんの動画、寺山修司の世界なんかを教えてもらったときに、『私のやりたいものは、ダンスというよりも、表現や思想の世界なんだ!』って気づいたんです」
とくに、山口小夜子さんのファッションショーの動画には心惹かれた。