──撮影前は、当時の違法中絶や女性たちを巡る状況について「何も知らなかった」とヴァルトロメイは言う。
それまで違法中絶がどのように行われていたか、また、堕胎を商売としてる女性のことを「天使を作る女性」というとか、中絶する道具についても、あいまいな知識しかありませんでした。本当にこんなに暴力的な現実があるなんて知らなかったんです。小説を読んだ時は、具体的なディテールに驚愕しました。
そして、もう一つ驚いたことは、違法中絶の現実を書いた本が彼女の1冊しかないということでした。中学生ではまだ早いかもしれませんが、高校生にはこういうことをこの本を通して教育することはとても重要だと思います。私は20代で読みましたが、10代の人たちにも早いうちに(自身の性に対する)意識を持ってもらえればいいなと思います。そういう意味でも、この映画はやはりたくさんの人に見られる価値があると思いますし、小説も読まれる価値があると思うんですね。
──ヴァルトロメイはオーディションで主役アンヌを射止めた。
私はシナリオに性的なシーンがあると、そういうのをやりたがらないタイプの俳優です。でも、今回はシナリオを読んだ時に、これは意味があることだという確信をすごく持てたんです。そこで、「ちょっと監督に会ってみよう」という気持ちでオーディションに行きました。実際、オードレイ・ディヴァン監督にお会いして、この役は本当に俳優冥利に尽きるというか、プレゼントみたいな役だな、と思いました。お会いした後にすぐに電話があって「この作品をやる気持ちはありますか」と聞かれたので、「もちろんです」って答えました。
──堕胎は時間との闘いでもある。1週間後、数週間後と映し出される時間経過は、見る者の鼓動を速める。映画では思わず顔を背けたくなるような堕胎のシーンが何度か出てくるだけに、演じるヴァルトロメイもかなりハードだったに違いない。