さらに今回は、失速だけでなく、選手の途中棄権の可能性も高いと松野氏は指摘する。例に挙げたのは、1991年の9月1日に東京で行われた世界陸上の男子マラソンだ。この大会には松野氏も女子10000mの選手として出場しており、当時の状況を振り返った。

「男子マラソンは朝6時スタートでしたが、6時時点で既に気温が26度あったんです。レース中に気温は30度を越えて、完走率は60%くらいだったと思います。4割近くの選手が、途中棄権をしたんですよね。今回も4割くらいの選手がもしかするとリタイアする可能性が出てくるんではないかと心配しています」

 こういった環境の中、レース展開はどのように予想するのか。

「今回は暑さ、自然との闘いということで、恐らくかなりのスローペースになるのではないかと私は思っています。記録というよりも、やっぱり順位ということになるでしょうね。どれだけ30キロくらいまでに体力を温存して走れるか、ということになってくるのではないでしょうか。日本人選手はラスト10キロで、アフリカ勢にどれだけ食らいついていけるか、ということになると思います」

 注目選手は、と聞くと「日本代表の方は皆さん頑張ってほしいので……」と悩みながら、「男子代表の大迫選手」と答えた。

「小柄な体で頑張っている姿を見ると、私自身も自分の昔を思い出すような。頑張ってもらいたいなと思いますね」

 一方、マラソンの応援といえば、沿道に集まった観客が旗を振り声援を送るシーンが印象的だが、今年は感染対策のため、札幌市は沿道での観戦自粛を訴えている。しかし、既に競技が行われている東京では、外から競技を見ることができる場所には観客が集まる事態となった。感染拡大への懸念について、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう語る。

「今感染が拡大しているデルタ株の感染力は、水疱瘡と同程度と言われていて、水疱瘡の家庭内感染率は90%です。エアコンを入れた室内は換気効率も悪くなりますので、屋内に1人でも感染者がいれば移る可能性が高い。沿道で観戦するとなれば移動に公共交通機関を使うこともあるでしょうし、暑くて屋内に入るということもあるでしょうから、観客が集まるのは非常に危険でしょう」

 記録的な暑さに加えて、感染拡大が続いている今、沿道ではなく自宅でレースの行方を見守ってほしい。(AERA dot.編集部・大谷奈央)