ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。
短期集中連載の第3回は、小松正茂さん(49)。柔軟な発想と行動力を併せ持つプロジェクトリーダーだ。ソニーの再生の原点を探ると多くの新規事業、そして、背景にある法則がみえてくる。2022年12月5日号の記事を紹介する。(前後編の後編)
* * *
次に取り組んだのは、グループ横断プロジェクト「au×Sony“MUSIC PROJECT”」だ。ケータイとオーディオ機器を結び、“着うたフル”を共有するのが狙いだった。
どの会社もそうだが、ソニーにも「組織の壁」はある。それとの闘いを強いられた、手のかかるプロジェクトだった。
ケータイは、ガラケーからスマホに移った。2007年のiPhone、翌08年のアンドロイド端末発売以降、スマホは世界的に広がった。
■いまは目立つな
ソニーは、危機感を持った。若い世代を中心にスマホで音楽を聴くスタイルが定着していったからだ。
スマホにすべてもっていかれるのではないか。事実、スマホへの楽曲のダウンロードは、たちまちCDシングルの生産全額に匹敵した。
小松は当時、グループ戦略部門に所属していた。以下、小松のコメントだ。
「若い人に聞くと、音楽をケータイで聴くだけではなく、CDをレンタルしたり、ウォークマンでもコンポでも聴いている人がいる。また、偶然聴いた曲をすぐ購入できて、高音質の音楽専用機器で聴きたい人もいる。だったら、いままでケータイで閉じていた音楽を、もっと自由に、もっと高音質で楽しめる仕組みをつくれば、新しいライフスタイルを提案できるのではないかと発想したんです」
当初は、予算もなければ、開発するエンジニアもいなかった。さらに、ソフトウェア部門のスタッフも動かさなければいけない。必要な人材を見つけ、説得し、一本釣りもした。
プロジェクトを進めるにつれ、オーディオ事業本部、技術開発本部、ソニーマーケティング、レーベルゲート、ソニーミュージック、さらにソニー・エリクソンなど、次々と「組織の壁」の突破が求められた。
開発体制の構築、リソースの獲得、スケジュール管理、ビジネスモデルの構築、マーケティング協業推進など、社内の利害調整に手を焼いた。
そのうえ、アライアンス交渉など、苦労が絶えなかった。