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高齢の親を持つ人にとって、「親の介護」は他人事ではありません。かといって、親の老いに正面から向き合うのも勇気が必要です。「いま親に何かあったらどうしよう」と不安を抱えつつ、「まぁ、何かあったらそのときに考えよう」と先のばしにしている人もいるのでは? 『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(上大岡トメ著)の監修を務めたファイナンシャルプランナー黒田尚子さんは、自身も母親の遠距離介護中。そんな黒田さんに、イマドキ介護予備軍の心構えをうかがいました。
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現代の高齢者は元気な人が多いので、「まだ元気」と「そろそろヤバい」の見極めは難しいものです。
多くの場合、親の老化が「ヤバい」と感じる瞬間と「いや、まだ大丈夫」と安心させてくれる瞬間が交互にやってきます。でも「まだ大丈夫だろう」と見て見ぬふりをしていると、突然「ヤバい」が優勢になって介護に突入!というのが、よくあるパターンです。
でも「ヤバい」が優勢になってからでは、対策が後手に回ることが少なくありません。親が要介護状態になったときに、だれがキーパーソンになるかきょうだいで話し合ったことはありますか? 介護にかかるお金は誰が負担するのでしょうか。そもそも、親の預貯金がどこに、いくらあるのか知っていますか?
こんなふうに問いかけると、「そもそも、介護って子どもの義務なの?」という疑問が湧き上がる人もいるかもしれません。私も地方在住の母を見守っていますから、その違和感はわかるつもりです。私自身、母との関係が良好だったわけではありませんし、いまもささいなことで「気が合わないなぁ」と感じます。親子だから無償の愛情があるはず、などとは思いません。
それでも産み育ててくれた親への感謝はありますし、性格が合わないからといって親を見捨てるほど冷淡な人間でもありません。いくら「義務ではない」としても、知らん顔を続けるのは難しいものです。
そして、ファイナンシャルプランナーとしての仕事上、「どんなことでも早期発見、初期対応が大事」ということはわかっています。
親の老いを見て見ぬふりをしてしまうことで、気づいたときには「介護にかけられるお金がなくなっている!」「親の家がゴミ屋敷に!」「悪徳業者にだまされた!」など、さまざまなトラブルに巻き込まれることもあります。そうなると、火の粉は必ず自分と自分の家族にも飛んできます。介護はやはり、家族全体の問題なのです。
だからといって「介護は子どもの義務」とは思いません。介護に疲れて親を虐待してしまう人、親子で死を選ぶ人は絶えません。そのくらいなら逃げていいのです。でも、もっといい方法があります。それは公的制度や、社会のさまざまなシステムを利用することです。
いまの日本には、高齢者へのさまざまなサポートシステムがあります。大きく分けると、次の4つです。
自助 …夫婦、親子
本人や家族が主体となって支え合い、助け合うこと。自分でおこなう健康管理や、市販の商品やサービスを購入することも自助の範囲。
互助 …ご近所さん、ボランティア
ご近所さん、友人関係、ボランティアやNPOによる支援など、制度化されてない(金銭が明確化されていない)、自発性の高い支え合いのこと。
共助 …介護保険サービス
介護保険に代表されるような、社会保険制度や自治体独自のサービスなどの助け合い制度。
公助 …行政支援
生活保護や高齢者福祉など、税金を使った国主導の助け合い制度。人権擁護や虐待防止などもここに含まれる。
多くの高齢者やその家族は、要介護状態になるまで「自助」、つまり自分の努力や家族の支えだけで乗り切ろうと考えがちです。でも利用できる資源は周囲にいろいろあります。ご近所さんや友人関係だけでなく、自治体によるサポートも多岐にわたって用意されているのです。使わないなんて、もったいない話です。
私の知り合いに「いざとなったら、親の介護はお金で解決する!」と豪語している人がいました。「遠方に住む親に介護が必要になったら、老人ホームに入居させる。自宅にいたいと言うなら、介護保険の限度額を超えてプロに介護してもらう」と言うのです。
でも実際には、多少弱ったくらいでは「まだ施設には入りたくない」「他人を家に入れたくない」という高齢者は少なくありません。その場合、お金で解決できないことは案外多いものです。ゴミ出しをお願いできるご近所さん、食料品を配送してくれるスーパー、電球をかえてくれるボランティアなど、地域のネットワークと、それを使いこなすための情報力の方が役に立つのです。
もちろんお金も必要です。特に介護度が上がると、お金が必要になる場面が急激に増えてくるものです。貴重なお金を必要なときに効果的に使えるよう、情報を集め、ネットワークを築いておきましょう。
親の「今後」が気になったのであれば、まずは親の住む自治体にどんなサービスがあるのか調べてみるといいかもしれません。情報を一カ所で集めたいなら、親の住む地域にある「地域包括支援センター」を訪ねてみるといいでしょう。
介護に必要なのは、「お金」「情報」「ネットワーク」の3つです。けっして「子どもの無償の愛」がなくては成り立たないものではないということも、おぼえておいてください。
黒田尚子
CFP®1級FP技能士。CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を有する。富山県出身、千葉県在住。立命館大学法学部卒業後、日本総合研究所入社。在職中にFP資格を取得。1998年独立。現在は、医療や介護、老後、消費者問題などに注力。がんと暮らしを考える会の理事や、城西国際大学の非常勤講師を務める。