ジャーナリストの田原総一朗さんは、米中間選挙で民主党が健闘し、「赤い波」が起きなかった理由を指摘する。
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11月8日に行われた米国の中間選挙についてである。米国メディアの世論調査では「レッドウェーブ(赤い波)」が押し寄せる、つまり共和党が圧勝すると予測されていたのだが、「赤い波」は起きず、民主党が予想外の善戦をした。
上院は民主党が西部のネバダ州を制して多数派を維持し、民主党50、共和党49となり、下院は共和党が多数派とはなったが、共和党220、民主党213と、僅差(きんさ)の戦いだった。
なぜ「赤い波」は起きず、世論調査の予想が外れたのか。
一つは、人工妊娠中絶の権利の是非だ。米国の世論は中絶の権利を重視していて、共和党支持層が中心の州では中絶の権利を否定する向きが強く、反発が起きた。特に若い層が中絶の禁止は人権無視と捉えたのではないだろうか。
そしてもう一つ。私は、トランプ前大統領がはしゃぎすぎたためではないかと見ている。
トランプ氏は、バイデン大統領と民主党をそれこそクソミソに非難した。それが無党派層の国民の反感を買ったのではないか。
トランプ氏は話題に事欠かない。
大統領時代、米国が新型コロナに襲われたとき、「新型コロナなど風邪みたいなものだ」と言い捨て、マスクをせずに人々と会い、自身が感染した。ホワイトハウスの人間たちも、トランプ氏に忠誠を尽くすためにマスクをしなかったので、集団感染を引き起こした。
もしもこの出来事がなかったら、おそらくトランプ氏は再選されていたのではないか。
トランプ氏が大統領選に立候補した当時、それまでどの大統領も口にしないことをあえて言い切った。「世界のことはどうでもよい。米国さえよければよいのだ」と。
手前勝手な発言だと思えるが、これが多くの米国民に受けた。
米国は第2次世界大戦後、世界で最も豊かで、軍事力の強い国であった。だから米国民は、世界の平和・秩序を守るのは米国だという強い使命感を抱いていた。