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 医師・コメンテーターとして活躍するおおたわ史絵さん。快活な印象のあるおおたわさんは、実は幼い頃から母の機嫌に振り回され、常に顔色をうかがいながら育ってきたといいます。母が薬物依存症の末に孤独死したことをテレビで公表し、大変な話題を呼びました。

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 幼少期からの過酷な体験、親との別れ、そして母の呪縛からどうやって逃れたのかを克明につづった『母を捨てるということ』から抜粋して掲載します。

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 父の死後、母はお金に対する異常な執着を見せるようになった。

 もとからお金は大好きで、とくに現金を手元に置きたがる習性があった。変な話だが、財布のなかにはいつも十万円の束がいくつか入っていないと気が済まなかったし、寝るときですら枕の下に百万円の束を敷いていたくらい、イヤらしい現ナマ好きだった。

 長野の田舎育ちで決して裕福とは言えない幼少期を鑑みれば、お金持ちに対する憧れがあったって不思議ではない。昭和の戦争を知る時代の女ゆえ、裕福になることが幸せなのだと信じて生きてきたのかもしれない。それを責めることもできない。

 ただ父の死後、急激に金銭にまつわるトラブルを立て続けに引き起こすようになる。

 最初は、わたしが父の遺産をすべて奪い取ったと親戚じゅうに触れ回った。当然事実無根である。

「史絵はあんなに頭のよさそうなふりをして、中身は泥棒なんだよ」

 という調子だ。もちろん親戚もそれを鵜呑みにはしないものの、

「史絵ちゃん、はる子おばさんは大丈夫なの? なんだかお金の心配ばかりしてるわよ」

 と聞いてくるので、いちいち誤解だと説明しなくてはならなかった。

 親戚だけならともかく、困ったことに取引先の銀行にまであることないことを話し始めた。

「娘が勝手に口座からお金をおろしているから、止めてください」

 と連絡を入れたりした。泡を食った担当者が支店長同伴で駆けつけ、真相を理解してもらうためにわたしが何度も謝る必要があった。

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忙しさでいっぱいいっぱいだった私の邪魔ばかりする母