A君はその時は「まさか自分のせいじゃないでしょ」と思っていたはず。だけど、僕が何度も言うので検査に行くと、彼の精子の数がかなり少ないことが判明し、自然妊娠は諦めて、早めの体外受精を行い、この秋出産予定。

 そうなんです。男性で「自分の精液に問題はないでしょ」と思ってる人は多いと思うんです。

 だけど、検査に行って僕やA君のように現実を知る。これがとてつもなく大事だと思うんです。早くわかれば、対処のしようがある。

 この10年で男性不妊ということも、段々、浸透してきたとは思うけど、でも、男性は「俺は大丈夫」と思ってる人多いと思います。

 なので、この状況を少しでも変えることができないのかなと、2016年の年末から男性不妊をテーマに小説を書きました。「僕の種がない」という小説。

 男性不妊をテーマに、それをエンターテイメント性のある小説にできないかと挑戦してみました。その結果、一人のドキュメンタリーディレクターと、余命半年の芸人さんの話を作りました。結婚している芸人さん。子供はいない。その芸人さんが病気で余命宣告をされ、

 ディレクターに自分のドキュメンタリーを撮影してほしいとお願いをする。

 そこで、ディレクターが突きつけたこと、それが「余命宣告がされている中で、子供を作ることに挑戦しましょう」ということ。だけど、芸人さんの精子は……という物語なのですが。

 賛否両論出るだろうなとは思っています。だけど、男性不妊と言うものに対する考えが、何かをきっかけに変わってくれることで、夫婦の形ももっと変わってくると思うんですよね。そんなことを願い書いたこの小説。

 書き始めたのは2016年12月27日。その前日に20年やっていた番組が終わった日でした。

 大切なものが終わりを迎えたからこそ、新しいことを始めようと作ったこの作品、「僕の種がない」で。少しでも何かが変わってくれることを願っています。 

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のバブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」と毎週水曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)が10/4に発売決定。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。作演出を手掛ける舞台「もしも命が描けたら」が9/17(金)20:00 より配信が決定(見逃し配信:~2021/9/23木23:59)。長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。

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