
ところがここへきて、今年二月「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」四・六月「桜姫東文章」、そして今回の「四谷怪談」となんとも豪華に酔わせてくれる。
なぜこの時期にそうした組み合わせが立て続けに?と考えると興行側のファンへの心づかいが感じられる。
案の定、チケットは発売から瞬時に売り切れ。
感染対策もバッチリ取られている。入口での消毒検温は当たり前だが、入場券をちぎるのも自分でやる。一席ごとにあけた客席、かけ声はなく拍手のみ、休憩時にも少し話していると「お静かに」と書かれた紙が示される。
他に出かけられない中、私にとっては唯一といっていい愉しみの機会。おしゃれをしていった。着物姿の女性が多かった。せめてハレの舞台を楽しみたい気分なのだろう。
帰り道、八時すぎに銀座を通る。車で大混雑。何かと思ったら、店が閉店した直後だから。かつての十一時過ぎの銀座の賑わいだ。
着物やドレスの銀座ママやホステスの姿はないが、なんと花売り娘ならぬ花売りおばさんの姿を見つけた。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2021年10月8日号