花柄のマタニティードレスを着たバリアさん。表情は明るく健康そうだった。クリニックを併設したリビウのエージェントで話を聞いた(撮影/丹内敦子)
花柄のマタニティードレスを着たバリアさん。表情は明るく健康そうだった。クリニックを併設したリビウのエージェントで話を聞いた(撮影/丹内敦子)

 もう一つウクライナが人気の理由に費用がある。リビウのエージェントのホームページには10月末現在、代理出産は「3万4150ユーロ(約500万円)から」と表示されている。諸事情に応じて費用はかさむ。それでも一部の州で認められている米国での代理出産は、2千万円はかかると言われ、費用を比較してウクライナを選ぶ夫婦は少なくないようだ。

 他方、ウクライナ国家統計局によると、戦争前の2021年5月時点の名目平均月収は1万3499フリヴニャ(約5万5千円)。代理出産の報酬は一般に1万~2万ユーロ(約150万~300万円)とされる。妊娠出産の心身への影響などを考慮しても、お金を理由に引き受ける女性が多いのが実情だ。

 戦争以前は、ウクライナでは毎年2千~3千人の子どもが代理出産で生まれ、その多くが外国人の夫婦からの依頼だったと見られている。統計はないが、戦争で代理出産を依頼する夫婦は減少しているようだ。年間約30件を請け負っていたリビウのエージェントも、半減したと話す。戦争の終結が見えないなか、代理出産の依頼を延期した夫婦もいるという。

 子どもの引き渡しがスムーズにできるかどうかは大きな懸念材料だ。新型コロナウイルスの感染拡大でウクライナの国境が一時封鎖された時は大変だったという。2月の侵攻当初、依頼した親がウクライナに引き取りに来られなくなるのではないかと危惧された。しかし、リビウのエージェントの国際部門責任者のイリーナ・シュラパックさん(27)はこう強調する。

「引き取りに来なかった夫婦はここでは一人もいません。ウクライナに来ないと赤ちゃんも出生証明書も得られないから、依頼した夫婦にはウクライナに来る以外の選択肢はないのです」

 戦時でも平時でも、子どもにしわ寄せがいかないことを祈るばかりだ。(朝日新聞記者・丹内敦子)

AERA 2022年11月21日号より抜粋

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