「創業者」という言葉では収まりきらない比類なきカリスマ。米アップル社を創業したスティーブ・ジョブズが2011年10月5日に亡くなって10年が経つ。美学を貫き、妥協を許さなかった彼から私たちは多くを学んだ。AERA 2021年10月11日号は「ジョブズ没後の10年」を特集。不在の「10年」を問う。
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「十年一昔」という言葉がある。現代の偉人、スティーブ・ジョブズの急逝は、私たちの多くにとって、まだ記憶に新しいニュースだ。あれから10年、世の中は大きく変わった。
彼が亡くなった2011年は東日本大震災のあった年。米国はバラク・オバマ大統領、日本は民主党(当時)の野田佳彦内閣の時代。BREXITの実現やトランプ政権の誕生、そしてコロナ禍など想像していた人はいなかったはずだ。
アップル社も大きく変わった。彼が見届けた最後のiPhoneは音声アシスタント機能のSiriを初めて搭載し、アップルがようやくカメラ機能に本腰を入れ始めたiPhone4Sだった。今ではAIスピーカーから自動車まで音声アシスタントはそこかしこに溢れ、どのメーカーのスマートフォンでも、カメラ機能こそが新製品発表の要となっている。
後継のティム・クックCEOは17年以降、今年の9月に発表された最新のiPhone13シリーズに至るまで、最新製品を新社屋、Apple Parkの「Steve Jobs Theater」から世界に向けて発表している。
■飾られた「言葉」の重み
生前のジョブズが働いていた旧アップル本社は、そこから車で5分、およそ3キロのところにある。少し前まで、その旧本社の4番ビルの壁にはジョブズの白黒写真が2枚掲げられ、彼のこんな言葉が社訓のように飾られていた。
「何かをやってみてうまくいったら、他の素晴らしいことに取り組み始めるべきだ。成功の上に長く居座り続けてはいけない。次は何かを考えるんだ」
クックCEO率いるアップルは、この10年、まさにこれを実践し続けてきた。Apple WatchやAirPodsなどのウェアラブル製品もジョブズの逝去後にヒットした。プロセッサの自社開発や自社電力の100%再生可能エネルギー化、収益源をハードからサービスの売り上げへ移行させるといった大改革を次々と形にしてきた。