とはいえ以上は総選挙に論点がないことを意味しない。むしろ逆である。政府はコロナ対策で失敗を繰り返している。ワクチンは遅れたし病床拡大もうまくいっていない。東京五輪は巨額の赤字を残し、自粛の皺(しわ)寄せは弱者に集中している。岸田氏の当選も結局は派閥の力学によるもので、古い体質の表れだ。総選挙は、そんな日本政治がこれからどう変わるべきなのか、与野党がタブーなく論争を交わし未来を切り開く貴重な機会にならねばならない。
しかしそのためには野党はまず従来の与党批判の方程式を捨てる必要があるだろう。自民党は変わった。少なくとも、多くの国民がそう思うようなメディア状況が作り出された。その状況でいまだ「アベ政治を許さない」一辺倒だとしたら、捨てられるのは野党のほうかもしれない。
総選挙までまだ1カ月以上ある。今度は野党起点で旋風が巻き起こるのを期待したい。
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2021年10月11日号