ハリケーンによる洪水であふれた水に浮かぶヒアリの「いかだ」/2017年9月1日、米ヒューストン(c)朝日新聞社
ハリケーンによる洪水であふれた水に浮かぶヒアリの「いかだ」/2017年9月1日、米ヒューストン(c)朝日新聞社

■日本における水際対策

 こうした状況下で、ヒアリ対策はどうなっているのか。

「まず、港湾関係者にヒアリのアナウンスを徹底しています。次に、東京、大阪、名古屋といった貿易港について。これら全国65カ所の国際港湾については、年に2回のペースで港エリアのモニタリング調査を専門家が行い、警戒をしています。発見次第、即座に駆除を行える体制を整えています」(五箇室長)

 要となるのは早期発見である、と五箇室長は語る。

 より踏み込んだ対策として「全コンテナ内への家庭用殺虫剤散布」を検討している。だが、実施には至っていない。なぜか。

「ヒアリに有効な薬剤はすでに存在し、コンテナを開封する前に散布すれば抑止になります。しかし法律上、コンテナを開ける権利は「荷主」と「税関」しか持たないため、実現のためにはルールの変更が必要であり、行政面で非常にハードルが高いのです。」

 とはいえ、この施策が実現できたとしても根本的な解決には至らないという。その背景には、拡大し過ぎたグローバル経済がある。

 ヒアリは海外からの貿易コンテナに乗ってやって来る。なにも中国だけがヒアリの“輸出国”ではない。つまり侵入の原因を断つには世界からヒアリを駆逐するか、日本がコンテナの輸入自体をやめるしかない。

 2020年に日本が輸入したコンテナは869万TEU(1TEU=20フィートコンテナひとつ分)。ここまでグローバルサプライチェーンに依存している輸入大国の現代日本が、1種類の外来生物のために“鎖国”は、非現実的。これは新型コロナにも共通するが、絶えず海外から流入する人や物資、それを乗せる「進みすぎたグローバル化」が問題の根底にあるのだ。

「油断すれば、瞬く間に国内へ広がる状況である」と警鐘を鳴らす五箇室長だが、調査によって新たな懸念が浮上する可能性もある。

「国立環境研究所でも、コロナが収束した暁には外来種の一斉調査を行う方針です。その時ヒアリだけでなく、未知の外来生物も発見される可能性は捨てきれない」

 新たな感染症によって、力を狭めることになった人類。その停滞は私たちを振り回しただけでなく、生活圏を虎視眈々と狙う外来生物たちにとって願ってもない機会なのかもしれない。(文・西口岳宏)

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