もう一つ、自民党内で公示ぎりぎりまで熾烈な公認争いを繰り広げた選挙区がある。
「物心ついたときから、どこに行ってもあだ名は『孫』でした」
その言葉に、どっと笑いが起きた。話の主は、群馬1区の候補者の中曽根康隆氏(二階派)。祖父に元首相の康弘氏を、父に参議院議員の弘文氏をもつ政界の「サラブレッド」だ。
前回総選挙では自民の小選挙区公認を得られず、比例で初当選。以来4年にわたり尾身朝子氏(細田派)との公認争いが注目されてきた。だが、今回は「現職優先」の原則を覆して公認を獲得した。
「中曽根の名前も大きいけど、4年かけて地元を回り続けたことが公認につながったと思う。ゼロだった後援会は50まで増えた。これで負けたら、それこそ末代まで語り継がれる。勝つしかない」(後援会幹部)
■元上司と元部下の戦い
群馬は、中曽根康弘、福田赳夫、小渕恵三ら時の首相がしのぎを削った「上州戦争」の地だ。五つある選挙区のうち、3区で首相経験者の子孫が立候補するなど、世襲の色も濃い。
「国会は2世、3世、4世といった世襲議員ばかり。世襲議員を否定するわけではないが多すぎる」
そう批判するのは、元衆院議員で日本維新の会公認の宮崎岳志氏だ。宮崎氏と無所属で新人の斉藤敦子氏が立憲民主の公認を争ったものの結局、ともに得られなかった。共産新人の店橋世津子氏の計3人が中曽根氏に挑む。
一方、激しいつばぜりあいの末に比例に回った尾身氏を支援したのは安倍元首相だった。前橋市内で6月にあった集会にも駆けつけ、「尾身さんが公認候補でなくなることはありえない」と発言していた。結局、尾身氏は比例北関東ブロック単独1位になったが、安倍氏の影響力がうかがえる。
続いては旧民主から自民に移り、元上司や元同志たちと対決する候補者もいる。
東京18区は今、かつての党友が真っ正面から激突。もともとは立憲民主の菅直人元首相の地盤。そこに今回、落下傘候補としてやってきたのが自民の長島昭久元防衛副大臣だ。長島氏は民主党政権の菅内閣で防衛大臣政務官を務めた。いわば元上司と元部下の関係だ。