映画「信虎」で武田信玄の父・信虎を演じた俳優の寺田農さん。実は若い頃から失敗が絶えないという。寺田さんがエピソードを明かす。
【前編/寺田農、60年役者やっても思想は「アマチュア」と言い切る理由】より続く
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子供の頃から今の今まで、日々楽しく幸せに暮らしている。悩んだりクヨクヨすることはない。
「わたくしはね、蠍座の午年のB型なの。つまり、何か始めるとものすごくしつこいけど、サソリから馬になると突然飽きちゃう。ついでにB型のいい加減さが根幹にあります(笑)。そりゃ振り返ってみればね、『生まれてこの方、恥ずかしいことの連続だった』という言い方もできますよ。若いときなんか、平気で遅刻して、沢村貞子さんに怒鳴りつけられて土下座したり。そんなの山のようにあるよ。でもそのときも、めげないの。心に傷がつかないの。だからストレスがないんだね」
お酒にまつわる失敗も数知れず。相米慎二監督や実相寺昭雄監督と組んでいた頃は、毎晩浴びるように飲んでいた。
「でも一番の失態は、初めて高倉健さんの映画に出演したとき。降旗康男監督の『冬の華』(1978年)という作品でした。健さんといえば、我々の時代でも、憧れの大スターですよ。共演できるというだけで舞い上がった。いよいよ明日健さんと2人のシーンがあるとなったら、さすがの俺も、『早く寝て、明日に備えねば』なんて思っちゃってさ。それにはチラと飲んだほうがいいだろうと。チラと飲んだら、朝の5時ぐらいになっちゃった(笑)」
酒と、なぜかニンニクの臭いをぷんぷんさせて撮影所に行くと、スタッフは大騒ぎに。「健さんはニンニクが嫌いだから、りんごを食べて臭いを消せ!」など、さまざまな怒号が飛び交った。
「気持ち悪いから、セットの脇で死んだように横になっていたら、はるか向こうから、『アラビアのロレンス』のオマー・シャリフのように、黒ずくめの男が走ってくるじゃありませんか。『あ』って、幻を見たような気持ちでいたら、その男は、俺の前でピタッと止まって、『高倉です、よろしくお願いします』と挨拶されたんです。俺は、立ち上がることもできずに、『は~よろひくおねがひしまふ』みたいな……。撮影が始まって、一応、『すみません、酒とニンニクの臭いがすごくて。高倉さんはニンニクがお嫌いだそうで』と謝ると、『いや、大丈夫です、自分、ニンニク、好きです』みたいなことを言われて」