政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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今回の総選挙は、自民党が過半数を確保できるかが大きな争点のひとつでした。ただ日本の政治全体を見渡した時、それは実は些末(さまつ)なことに思えます。
たとえ自民党が過半数を割ったとしても、連立の相手は公明党もいるし、日本維新の会もいます。政権の存続と安倍政治の継承という点で、結局は「何も変わらない」という空気が蔓延(まんえん)すれば、政治に関心のない有権者が増えます。政治との距離感が開き、低い投票率で絶対的に優位な議席数を確保できる巨大連立与党の政権が続くからです。
G7はもちろん、G20を見渡しても、一時の下野を別にすれば、60年以上にわたり政権の座に居続けた政党は中国共産党を除くと、日本の自民党だけです。その理由を単に「野党がだらしないから」で済ませてはいけません。健全な政治と代表制民主主義のあるべき姿を根本から考え直す必要があります。
ドイツの政権選択の範囲は、中道左派か中道右派です。ところが、日本は右の自民党と左の共産党との間に開きがありすぎて、緩衝地帯となる勢力が育っていません。しかも自民党はガリバーのように大きい。語弊がありますが、野党はリリパットになっているわけです。