「ネットに書き込むのは、被害者の思いを代弁したいという個人的な正義感が強いように思います。どのような事案でも、悲しみや怒りが当事者の感情を超えている方を多くお見受けしてきました。しかし、本来一番感情を出すのはご遺族です。当事者の感情を超えないことも支援になります。また、誹謗中傷によって被害者や遺族が傷つけられ加害者も苦痛を得るのは、犯罪被害者の団体としては望んでいません」

 言葉の刃(やいば)は被害者や遺族にも向けられる。今回、松永さんもネットでの誹謗中傷を受け、自宅にいても安全でないと思ったことが何度もあったという。小沢さんはこう話す。

「加害者が世間から社会的制裁を受けたことで量刑が減刑されるということに対し、同様に被害者も誹謗中傷という社会的制裁を受けています。それにもかかわらず、加害者のみが量刑の上で減刑されることに犯罪被害者の立場として心情的に不公平を感じています」

■誰もが誹謗中傷できる時代 小学生から教育が必要

 被害者サイドが受けた誹謗中傷が量刑に影響しないのはなぜなのか。交通事故裁判などの刑事事件に詳しい神尾尊礼(たかひろ)弁護士は、次のように説明する。

「刑罰は『やったことへの報い』です。しかし、被害者への誹謗中傷は被告人の『やったこと』ではないからです。もちろん、被告人自身が誹謗中傷をしたのであれば、別罪を構成する場合もあり、反省していないなどとして重く処罰されることになります。しかし、第三者が誹謗中傷したのであれば、それは『被告人がやったこと』ではないので被告人の罪は重くなりません」

 前出の小沢さんは、こう考える。

「SNS全盛の時代になり、誰もがネットリンチや誹謗中傷ができる社会になっています。そうした社会になったからこそ、ネット上でも被害者や加害者を作らないよう、小学生から教育が必要だと思います」

 そんななか、ネットでの誹謗中傷を食い止めようとする動きが進んでいる。侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案の要綱が10月21日、古川禎久法務相に答申された。

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